物価上昇と円安を無視せず、日銀は追い込まれる前に金融政策の柔軟性を取り戻せ
「わが国の物価についてみると、本年2月の消費者物価は、生鮮食品を除く総合で前年比プラス0.6%となりました。また試算値ではありますが、携帯電話通信料に加えてエネルギー価格などの一時的な要因を除いた消費者物価は、前年比0%台後半のプラスで推移しています」
これは3月24日の青森県における日銀の片岡審議委員の講演要旨にあったものである。たしか日銀の物価目標は消費者物価指数の除く生鮮食料品であったはずだが、いつからエネルギー価格などの一時的な要因を除いたものとなったのであろうか。
4月以降の消費者物価指数(除く生鮮)は携帯電話通信料の引き下げによる要因が剥落し、それとともにエネルギー価格や食料品価格などの上昇によって、前年比プラス2%以上となる可能性が強まってきている。
これに対して日銀の黒田総裁はコストプッシュ型の物価上昇では、2%の物価安定の目標を安定的に達成できたことにはならず、金融政策を見直す理由はないと述べていた。
果たして本当に見直す必要はないといえるのか。
欧米の中央銀行はすでに金融政策の方向を緩和から正常化に切り替えてきている。特にFRBは物価上昇圧力の強まりを受けて、次回は0.5%もしくはそれ以上の利上げの可能性を示唆している。
ロシアによるウクライナ侵攻によって、エネルギー価格や穀物価格がさらに急騰するリスクが出てきている。市場は行ってほしくない方に向かいがちとなる。物価高は一時的だとは言い切れず、しかもその水準がどこまで上昇するのかも見通せない。これをFRBなどは意識し始めているとみられ、日本も当然ながら例外ではない。
しかも、日銀が頑として正常化に向かうことを拒否すればするほど、欧米の中央銀行との方向性の違いが顕著となり、それは長期金利差の拡大を受けて、さらなる円安を招く。
円安は輸入物価の上昇を通じて、物価のさらなる上昇に働きかける、政府は夏の参院選も配慮して、エネルギー価格の上昇や物価の上昇に配慮する姿勢を示しつつある。物価の上昇要因ともなる円安に対し、それが日銀の現在の頑なな姿勢が要因となれば、それに対する批判が強まることも予想される。
追い込まれてからの対応では遅すぎる。市場は弱みに付け込む。
日銀の金融政策は本来、柔軟性のあるものであった。ところがアベノミクスによって、片岡審議委員などのリフレ派によるかなり穿った考え方に沿う政策をとってしまった。
このため2%という物価目標に縛られ、柔軟性が失われてしまった。これは現在の日銀が抱える大きな欠点となりつつある。これを早く修正しなければ、状況の急激な変化に対して、適切な対応が取れなくなってしまうことになる。