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国内企業物価指数は前年比9.0%もの上昇に、円安や原油高などが物価を直撃、消費者物価への影響は?

久保田博幸金融アナリスト
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 日銀が10日に発表した11月の国内企業物価指数は前年同月比9.0%の上昇となった。1980年12月以来およそ41年ぶりの大きさとなる。原油など国際商品価格の上昇に加え、円安で原材料にかかる輸入品が値上がりしていることが影響した。

 消費者物価指数が前年同月比でわずかにプラス0.1%の上昇となっているのに対して、国内企業物価指数との乖離が大きすぎる。

 欧米などの物価と比較しても日本の消費者物価指数の前年比が異様に低くなっている。これには賃金が上がっていないなどの影響があるとともに、企業の価格転嫁が進んでいないことも要因とされた。

 しかし、ここまで企業物価指数が上昇しているとなれば、企業も価格転嫁をせざるを得ない状況となりつつある。

 12月分の電気とガスの料金は、大手の電力会社とガス会社のすべてで値上がりする。全社の値上がりは4か月連続となった。これは原油価格の上昇が反映されている。電力料金の上昇はいずれ鉄道やバスなど交通機関の運賃の上昇の可能性も強めることとなる。

 原油の需要の拡大に対し、OPECプラスなどの増産などは慎重となっている。今後の新型コロナウイルス感染の状況も読みづらく、ある程度の原油価格を維持したい意向も垣間見られる。原油価格の上昇はひとまず落ち着いた感もあるが、今後の状況次第では、WTI先物価格があらためて100ドルをトライする可能性もありうる。

 穀物価格の上昇による影響も出てきている。これは産地の天候不順などの特殊要因も絡んでいるが、経済の正常化に伴う需要拡大も影響している。

 食品メーカーの「キユーピー」は主な原料である食用油の価格が上昇しているとして、来年3月からマヨネーズやドレッシングなどの商品を値上げすると発表した。大豆や菜種の取引価格の高騰を背景に、主な原料である食用油の価格が上昇しているためで、マヨネーズはことし7月に続いての値上げ、ドレッシングは2008年以来、およそ14年ぶりの引き上げとなる(12月1日付NHK)。

 小麦を始めとする穀物の価格が世界的に高騰し、小麦なども価格が上昇しており、これにより、来年1月あたりから、食パンなどの小売価格に反映される。

 大豆やトウモロコシなど他の穀物価格も高水準にあり、大豆が主な原料の家庭用食用油やマーガリンの価格にも波及している。これらはタイムラグを伴って価格に反映されることになる。

 いわゆるミートショックと呼ばれる牛肉や鶏肉の価格上昇も続いている。これには中国などによる需要拡大も背景になっているが、やはり経済の正常化による影響も大きい。牛肉の値上がりで大手牛丼チェーンの吉野家は10月29日に主力メニューの値上げに踏み切った。

 原材料価格や電気料金の上昇、輸送費の上昇などは食品メーカーなども直撃する。そこにサプライチェーンの問題も絡む。正常化による需要拡大でコンテナ不足などの問題も絡んでいる。こういった問題はいずれ解決するとの見方となっているものの、その「いずれ」がどのタイミングなのかが不透明となっている。

 円安による輸入物価の上昇は為替予約などの関係もあり、ややタイムラグを伴って食品価格などに反映される。

 日本では足下の消費者物価指数は前年比でプラス0.1%程度の上昇に止まっているが、来年4月には携帯電話料金の引き下げによる影響が剥落する。それによって前年比で1%程度の押し上げ要因となる。

 そこに円安要因が加わる可能性がある。当然これも輸入物価の上昇を通じて物価の上昇要因となる。本来であれば賃金の上昇も伴う必要があるが、コストプッシュ型の物価上昇のみで消費者物価指数の前年比プラス2%も見えてくる可能性もありうるか。

 そもそも物価の前年比で2%というのが適正な数値なのかはさておき、もし企業物価でみれば前年比で9%となれば異次元の金融緩和などやっている事態ではないはずである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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