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物価が上昇に転じなかった背景は2007年も今も変わらず、それでも金融緩和を修正する理由は全くないのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:cap10hk/イメージマート)

 原油価格や輸入原材料が高騰しており、企業はコスト増に直面している。企業間取引の段階では、コスト高を販売価格へ転嫁する動きがみられる。一方、最終消費段階の財にまでは転嫁はされてこなかった。

 この記述は最近のものではない。2007年に内閣府が出したレポートから抜粋したものである。

「日本経済2007 第1節 物価が上昇に転じなかった背景」 https://www5.cao.go.jp/keizai3/2007/1214nk/07-00301.html

 企業物価指数をみると、素原材料、中間財は中期的に大幅な上昇傾向にある一方、最終財では上昇がみられない。原油高等のコスト増は、川上、川中の生産財(素原材料+中間財)の価格にまでは転嫁されているが、川下の最終財にまでは転嫁が進んでいない。最終財は、品質向上が著しく下落基調にある電気機器のウェイトが大きい面もあるが、それらを考慮しても生産財と最終財の間の物価上昇率の差は大きい(内閣府の日本経済2007より)。

 直近の企業物価指数は前年比でプラス6.3%となり、伸び率は2008年9月の6.9%上昇以来、13年ぶりの高さとなっていた。ちなみに2008年9月の消費者物価指数は前年比プラス2.3%となっていた。

 この際の物価上昇の背景には原油高があったことで、消費者物価指数も一時的に2%を超えていたが、企業物価との乖離は大きい。その背景の説明が上記であり、これは現在でも変わっていない。

 この内閣府のレポートでは、原油価格や素原材料価格が高騰する中、企業取引段階では転嫁がある程度進んでいる一方で最終消費段階への転嫁が進まないことは、国内で生み出す名目付加価値の縮小につながっているとの指摘もあった。

 そして物価が上昇に転じないことや、個人消費が弱いことの背景として、賃金が伸び悩んでいることが挙げられるとの指摘もあった。

 今月8日に発表された日銀の金融政策決定会合における主な意見(2021年10月27、28日開催分)では、次のようなコメントがあった。

 「日米インフレ率の差は主にサービス価格であり、その大部分は賃金である。賃金引き上げには労働市場が更に引き締まることが必要である。家計・企業の待機資金の支出を後押しするためにも、所得と賃金の引き上げを目指すことが望ましい。」

 どうして賃金の引き上げが困難なのか。賃金を引き上げれば物価が上がるとすれば、大胆な金融緩和策によって能動的に賃金を引き上げることは可能なのか。すでに異次元緩和と呼ばれた日銀の量的質的金融緩和策を決定してから8年半が過ぎたが、物価を取り巻く環境は2007年時点となんら変わることはない。

 「金融政策の正常化とは、他国の政策動向にかかわらず、わが国での物価安定の目標を安定的に達成することであり、目標に達していないもとでは金融緩和を修正する理由は全くない。この点は、対外的に丁寧に説明すべきである。」との意見が「主な意見」にあった。

 そもそも2%という物価目標が適正なのか。どんな金融緩和策をとっても物価を取り巻く環境に変化はないのに、目標に達していないもとでは金融緩和を修正する必要はないと言い切ることに正当性があるとは思えない。

 異次元緩和の副作用、債券市場の機能不全、金融機関の収益性への問題、そして日本の財政悪化を見にくくさせるなどの副作用も考えれば、少なくとも極端な緩和策から柔軟な対応に戻す格好の金融政策の正常化はむしろ必要とされよう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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