国民もバラマキのリスクは意識している
財務省の矢野康治事務次官が文藝春秋(2021年11月号)に寄稿した論文で、与野党の分配要求を「バラマキ合戦」などと批判したことについて、政府・与党幹部が不快感を示したそうである。
この論文では次のような記述があった
「数十兆円もの大規模な経済対策が謳われ、一方では、財政収支黒字化の凍結が訴えられ、さらには消費税率の引き下げまでが提案されている。まるで国庫には、無尽蔵にお金があるかのような話ばかりが聞こえてきます」(文藝春秋2021年11月号、「財務次官 モノ申す このままでは国家財政は破綻する」より)
「数十兆円もの大規模な経済対策が謳われ」というのは岸田氏が自民党総裁選で主張した政策であろう。「財政収支黒字化の凍結」というのは自民党総裁選での高市氏の主張であり、「さらには消費税率の引き下げまでが提案されている」というのは立憲民主党や共産党の主張であろう。
自民党の高市早苗政調会長はNHKの番組で「大変失礼な言い方だ。基礎的な財政収支にこだわって、困っている人を助けないのはばかげた話だ」と語った(10日付時事)。
基礎的な財政収支にこだわってお金が回せないわけではない。現実に2020年度は大規模な補正予算も組まれ、使われていない予備費もあるはずである。
プライマリーバランスの黒字化目標は必ず達成しなければならないものではなく、あくまで目安である。それを廃止すべきという方がむしろおかしい。財政規律は必要なしと言いたいのであろうか。プライマリーバランスの黒字化の実現はかなり難しい。しかし何故、その看板を下ろす必要性があるというのであろうか。
矢野事務次官の指摘するバラマキ政策とは、アベノミクスの根幹にもあったリフレ派が主張している政策と重なる。そのうちの金融政策としては、政府と日銀がアコードを結び、大胆な金融緩和で物価目標が達成できるというリフレ派の理論そのものは、すでに崩壊している。
バラマキ政策とは日銀による国債買い入れを含む政策と財政政策を組み合わせた、いわばフリーランチ政策ともいえるものである。直接の税負担がないことで、国民受けはするかもしれないが、それはさらに財政を悪化させかねないし、むしろ将来の国民負担を増加させることになる。MMTという理論も出ていたが、その実験場に日本がされてはならない。
衆院選を控え、政治家としてはどうしても国民受けするバラマキを前面に打ち出したいのかもしれないが、国民はそれを鵜呑みにするほど愚かではない。そのあたりの認識も必要であると思う。