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バラマキ政策への徹底批判はどうして出てきたのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 財務省の矢野康治事務次官は、8日発売の月刊誌に寄稿した記事で、新型コロナウイルスの経済対策にまつわる政策論争を「バラマキ合戦」と批判し、このままでは国家財政が破綻する可能性があると訴えた。現職の事務次官による意見表明は異例で、今後、議論を呼びそうだと8日にNHKが報じた。

 現役の事務次官が政策に対し、このようなかたちで批判するのは極めて異例である。この記事が掲載されたのは文藝春秋(2021年11月号)である。

 「最近のバラマキ合戦のような政策論を聞いていて、やむにやまれぬ大和魂か、もうじっと黙っているわけにはいかない、ここで言うべきことを言わねば卑怯でさえあると思います。」(文藝春秋2021年11月号、「財務次官 モノ申す このままでは国家財政は破綻する」より)

 どうして黙っていられなくなったのか、その要因として次のことを指摘していた。

 「数十兆円もの大規模な経済対策が謳われ、一方では、財政収支黒字化の凍結が訴えられ、さらには消費税率の引き下げまでが提案されている。まるで国庫には、無尽蔵にお金があるかのような話ばかりが聞こえてきます」

 「数十兆円もの大規模な経済対策が謳われ」というのは岸田氏が自民党総裁選で主張した政策であろう。「財政収支黒字化の凍結」というのは自民党総裁選での高市氏の主張であり、「さらには消費税率の引き下げまでが提案されている」というのは立憲民主党の主張であろう。

 これらの主張は、いわゆるリフレ派と呼ばれる人達の主張である。日銀の異次元緩和もそうであった。しかし、物価目標は達成せず、金融政策がだめなら財政政策、とにかく日銀が大胆な緩和をして国債を大量に買い入れ、政府は国債を大量に発行して、財政政策を拡大させることが重要で、消費増税などもってのほかといったものである。

 どうやらこういった声をそれぞれ鵜呑みにして政策に取り入れようとの流れとなっており、これらに警戒を発したのが、今回の矢野事務次官の意見表明であったと思われる。

 もし真水で数十兆円となると、その分の国債増発などは、すでに前倒し債のバッファーもあまりない状況では困難になりつつある。景気も回復しつつあるなか、2020年度のような異次元の財政政策は必要なのか、それ以前にここからさらに財政を悪化させることにもなる。

 財政収支黒字化の凍結というのは、現実にそうなっているじゃないかと言われるかもしれないが、とにかくもその目標を掲げ、それを遵守するとの意向が、日本国債の信認維持には必要と思われる。外したければ外してみると良いかもしれないが、その際に国債市場がどう反応するのかはわからない。信認は積み上げるのはたいへんだが、それがなくなるのはあっと言う間である。

 消費税率の引き下げについては、日銀が物価目標達成できなかった理由にされたが、因果関係はかなり怪しいものがある。そもそも日銀の金融政策で物価が誘導できるのかという疑問もあった。さらに消費税率を引き下げれば、経済は回復し、その分の税収増で賄えるのか。そもそも消費税の目的は何であったか、それは矢野事務次官がしっかり記事で解説されている。どうしてこのタイミングで消費税を引き下げる必要があるのか、その主張の意味がわからない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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