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政権支持率と株価の関係、比較してもあまり意味はない

久保田博幸金融アナリスト
(写真:アフロ)

 2020年9月14日、両院議員総会による自由民主党総裁選挙が執行され、岸田文雄、石破茂を破り、菅義偉が選出された。9月16日に第99代内閣総理大臣に就任し、菅義偉内閣が発足した。

 2021年9月3日に菅首相は自民党総裁選に立候補せず、9月末の総裁任期満了とともに首相を退任する意向を示した。

 菅義偉内閣の発足時と総裁選不出馬を表明した日の日経平均株価は以下の通り。

 2020年09月16日の日経平均の引け値は23475円53銭。

 2021年09月03日の日経平均の引け値は29128円11銭。

 日経平均を見る限りにおいては、就任時よりも上昇しており、経済政策はうまくいったかにみえる。しかし、単純に株価を比較すべきものではない。現に9月3日の日経平均は584円高と大幅高となっていたが、これは菅首相の総裁選不出馬をむしろ歓迎したかのような買いであった。

 株価で引き出されるのが、いわゆるアベノミクスと呼ばれた2012年12月の政権交代によるアベノミクスの登場かもしれない。株価の上昇がアベノミクスの成功を示したものであり、それが支持率上昇と長期政権に繋がったとの見方がある。

 しかし、株価が政権支持率を上げるとか長期政権の要となっているわけではないし、そもそもこれはタイミングの問題でもある。

 2012年12月の安倍政権の登場時、安倍氏がリフレ的な発言をしたことで、急激な円高修正と株高が進んだとされる。円安株高が進んだのは確かであるが、それは欧州の信用不安が後退しつつあり、いわゆるリスク回避の巻き戻しが入りつつあったところに、日銀に大胆な金融緩和を押しつけるとして、それがひとつのきっかけとなって円売り、株の買い戻しといったアンワインドの動きを「加速」させたに過ぎない。

 このタイミングで米国株式市場もすでに上昇に転じていた。もしこの米株の上昇がアベノミクスによるものであるのならば、その成果と言えるかもしれないが、そんなことはないのは当然である。こちらもリスク回避の巻き戻しがすでに入っていたためである。

 ということで株価と政権支持率についてはあまり比較しても意味はない。

 昨年9月に菅政権が誕生したが、結果としてタイミングが悪かったとしかいいようもない。コロナ禍という戦後に経験したことのない事態にどう対処したのか。大胆な経済対策がすでに講じられていたが、それをうまくコロナ対策に生かせるのか。

 コロナ禍でもあったが昨年4~6月期を底に景気は回復基調にあった。中国や米国の景気回復によるものも大きい。大規模な経済対策も一定の効果はあったであろう。しかし、コロナ禍であっても、景気は回復してくることを示したものともいえる。このあたりは、戦前のスペイン風邪の際も同様であった。

 菅政権の経済政策はリフレ色の強いアベノミクスを継承していた。これは内閣官房人事などをみても明らかであろう。結果として日銀の金融政策を縛り付け自由度を失わせた。さらに過去最大で異常な規模の財政政策を打ち出し、こちらも極端な規模の国債増発を行っていた。それらが国民にとって安心材料と言えたであろうか。

 どうやら後継者となりそうな方々も、補正予算の真水とかニューアベノミクスとかとにかく財政拡大、真水数十兆円ありきの考え方をしている人が多い。これは野党も同様のようである。すでに2020年度で過去最大級の財政政策を行って真水は100兆円を超えているはず。国債残高はさらに急増している。こちらを不安がっている国民も当然かなりの割合で存在していることも念頭に置く必要があるのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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