デフレの終焉などの大変化に備える必要
エコノミストのロジャー・ブートル氏は、インフレの終焉を宣言してから四半世紀がたった今、インフレ再燃の兆しを見ているとブルームバーグが7日に報じた。
世界経済が新型コロナウイルスのパンデミックから回復し始める中、中古車や木材などの価格が上昇している。大半の金融当局者は物価上昇加速が一時的だとの見解に満足しているように見えるが、一部のエコノミストは警鐘を鳴らしている。その一人にキャピタル・エコノミクスの創業者で1996年出版の著書「デフレの恐怖」を執筆したブートル氏がいた。同氏は当時、何十年にもわたる高インフレが終わりを迎えたと主張している。
ブートル氏は現在が「大変化の始まりだと言わざるを得ない。ただ、70年代から80年代初頭の強いインフレ状態に戻るということではない。しかし、少なくともここ数年続いてきたデフレ時代は終わりを迎えていると思う」と語った(7日付ブルームバーグ)。
「デフレの恐怖」は私も買って読んだ記憶があるが、本棚の奥にしまってしまったようで、見えるところにはない。しかし、本のタイトルにもあったように、日本をはじめ欧米などでも物価が上がらないデフレの時代が2000年以降は続いていた。
リーマン・ショック、そして欧州の信用不安、さらに新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって物価が上がらず、中央銀行の金融政策は物価動向とともに景気への影響も配慮して、強力な金融緩和策を取るざるを得ない状況が続くことになる。
米国では一時、金融政策の正常化を進めていたが、コロナ禍によって振り出しに戻らざるを得なくなった。しかしここにきて、新型コロナウイルスのワクチン接種などによって、景気や物価を取り巻く状況に変化が生じてきたことは確かではなかろうか。
ブートル氏は大変化の始まりだと指摘したが、その可能性はありうる。1970年代のような物価の上昇が起きるのではなく、少なくともデフレの時代から脱却してくる可能性がある。それはつまり金利が付く時代に戻ることにもなるということになる。
そして、非常時の金融緩和策は正常時のものに戻す必要がある。しかし、それも躊躇することが予想され、巨額の財政政策も引っ込めることは難しくなろう。それはつまり予想以上の物価高をもたらすリスクを秘める。これは日本も例外とはいえないのではなかろうか。
そのための心の準備が、特に中央銀行には必要になるのではなかろうか。急激な正常化は市場の動揺を招きかねない。しかし、金融政策等の正常化の必要性を市場参加者にも理解させ浸透させる必要がある。これは日銀も例外ではない。