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中国政府がアリババの事業拡大を阻止しようとしている理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ米大統領は5日、中国アリババ集団の傘下企業が提供するスマホ決済アプリ「支付宝(アリペイ)」など中国アプリに関わる取引を米国内で禁じる大統領令に署名した(6日付日経新聞)。

 そのアリババだが、中国の規制当局は、アリババ傘下のアント・グループが築いた巨大なフィンテック(ITを活用した金融サービス)の帝国を事実上解体しようとしていると、こちらはウォール・ストリート・ジャーナルが報じていた。

 日経新聞もこれに関して、アリババ集団や騰訊控股(テンセント)が金融業にも手を伸ばし、既存の金融システムを脅かし出したため、事業拡大阻止に動き始めたと報じた。

 アリババが2013年6月に販売を開始したオンライン金融商品「余額宝(Yuebao)」の顧客が1億人に達し、運用資産残高は900億ドル(約9兆1400億円)を超えた。新たな金融商品の台頭が国有銀行を揺るがしているとされる。

 中国の銀行業界は4大国有商業銀行による寡占状態にある。アリババのマー会長は2013年に「銀行が変わらないなら、我々が変えていく」とも述べていた。

 余額宝とはアリペイで使い切れなかった資金を銀行に戻さずに投資に移され、いわゆるマネー・マーケット・ファンドと呼ばれるもので、銀行預金より高い利回りで提供されているそうである。

 以前、日本では証券会社の中期国債ファンドが人気化したことがあり、そこに銀行から資金がかなり移されたとされたが、そういったイメージか(現在は中期国債ファンドは消滅状態)。

 国有銀行などを脅かし始めたことで、中国政府はアリババなどのIT企業の金融事業に対して徐々に規制を強めたが、これにはデジタル人民元の存在も影響しているのかもしれない。アリペイとウィーチャットペイの牙城を崩すのもデジタル人民元を流通させることの目的のひとつであるとも考えられる。

 さらにここにきて気になるニュースも伝えられた。アリババ・グループの創業者、馬雲(ジャック・マー)氏がここ2か月ほど公の場に姿を現しておらず、中国当局が同グループへの規制を強める中、ソーシャルメディア上でマー氏の行方を巡り憶測が広がっていると、こちらはロイターが伝えていた。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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