コロナ起因の世界的な財政悪化は何を引き起こすのか
格付け会社S&Pグローバルのソブリン格付け首席アナリスト、ロベルト・シフォンアレバロ氏は、新型コロナウイルス流行に起因する財政悪化を理由に、一部の先進国が向こう数か月に格下げや格下げ方向への見直しの対象になる可能性があるとの見解を示した(16日付ロイター)。
現在、世界が極めて異常な状況に置かれていることは確かである。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が、世界史に残るような事態を引き起こした。東京で開催予定であった東京オリンピック・パラリンピックがはじめて延期となった。
各国は自国以外からの感染を防止するため、鎖国のような状況となった。あれほど海外観光客であふれていた日本の観光地から観光客が消えた。もちろんビジネスなども含め、海外への渡航が制限された。飛行場には飛ばない飛行機があふれた。
国内では4月7日から5月25日にかけて緊急事態宣言が出されて、人や物の移動が制限され、新幹線もガラガラの状態となった。これにより国内経済は大きな打撃を被った。ロックダウンが行われた国もあり、世界経済そのものが大きく落ち込んだ。4~6月期のGDPは各国ともに過去最大級の落ち込みとなった。
これに対して中央銀行も対策を講じたが、すでに政策金利はゼロもしくはマイナスとなり、大量の国債の買い入れも行うが、それには限度もあった。それ以前にこのような事態には金融緩和策というよりも財政政策に頼らざるを得ない。
このため日本を含め、各国は巨額の財政政策を実施した。2020年度の日本の歳出額は当初の102兆円程度であったのが、二度の補正によって60兆あまり積み増しされ、160兆円規模となっている。新型コロナウイルスの感染拡大は収まっておらず、これがさらに膨らむ可能性もある。
米国でも2020会計年度(19年10月~20年9月)の財政赤字が前年度比3倍の3.3兆ドルに膨らむと試算されている。大統領選挙後には巨額の追加の財政政策が打ち出されるとみられ、財政赤字はさらに大きく膨らむ見込みとなっている。
ロイターによると、シフォンアレバロ氏は、「自国を守るために非常に大規模な財政・金融政策を実施してきた欧州連合(EU)、日本や英国などの高度先進国、または米国が問題になっている」とし、「注目すべきは今後想定される財政の軌道で、異なる構造的パターンを確立する軌道が想定されるのならば、格付けで何らかの動きがあるだろう」とした。
格付け会社が格下げをしそうだから財政拡大は止めろというわけではない。異常な事態なので、対策も尋常ではないものになるのもいたしかたない。それでもこの債務規模の急激な拡大は、将来のリスク要因となることは確かである。それがどのような事態を引き起こすのか、いまのところ予測は付かないが、何らかのショックに至る時間の針を一気に進めてしまったようにも思われるのである。