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景気が良好な時期には財政政策を引き締める必要があるのは当然のことのはずだが

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 英国のスナク財務相は15日、「一世代に一度の」経済ショックの頻度が増しているとみられることから、景気が良好な時期にはこれまでよりも財政政策を引き締める必要があるかもしれないとの認識を示した(15日付ロイター)。

 この認識にはやや間違いがあると思う。「締める必要があるかもしれない」ではなく「締める必要がある」ではなかろうか。

 同相は議会財政委員会で「今回はこの10年間でわれわれが経験した2回目の『一世代に一度の』ショックであり、それゆえに『良い』時期の公共財政政策は若干異なる必要があるかもしれないと考えさせられる」と述べた(15日付ロイター)。

 これを日本に置き換えると1990年代のバブル崩壊、2000年代に入ってのITバブルの崩壊、2010年代には2008年のリーマンショックに続いて欧州の信用不安が吹き荒れて金融危機が訪れていた。

 ほぼ10年おきに何かしら世界的な危機が発生していたといえる。そして2020年の新型コロナである。

 我が国の歳出は一貫して伸び続ける一方、税収はバブル経済が崩壊した1990年度を境に伸び悩み、その差はワニの口のように開いてしまった。いわゆる「ワニの口」は1990年台のバブル崩壊で開きはじめ、2000年あたりでいったん落ち着くかと思われたものの、2010年近辺で再び開いた。それも落ち着いてきたとみたが、2020年度でアゴが外れたような状況となってしまった。

 本来であれば、上記の「落ち着いた」時期にワニの口の修正をする必要がある。しかし、常にリーマン並みの危機を恐れるような状況下、歳出の削減は限定的となり、大きな修正はされてこなかった。

 スナク財務相のいうところの良い時期(落ち着いた時期)の公共財政政策は若干異なる必要がある。できれば、若干ではなく、ある程度踏み込んだ修正の必要も今後はでてくるであろう。

 国際通貨基金(IMF)は新型コロナウイルス感染症のパンデミックで打撃を受けた経済を支援するため借り入れを増やす国の政府に対し、財政に注意を払うよう呼び掛けた。世界の債務水準が今年、過去最大に達し得ると指摘した(13日付ロイター)。

 これは英国だけでなく我が国も財政リスクをさらに意識する必要がある。今後、再び落ち着いた時期は訪れるはずであり、その際には金融経済危機というよりも財政危機を招かないようにする努力が求められよう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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