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キャッシュレスはポイント還元で本当に推進できたのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 キャッシュレス推進を狙った政府のポイント還元事業が6月30日に終了した。総額7000億円以上の政府予算を投じた結果、電子マネーやQRコード決済はある程度普及したとされるが、本当だろうか。

 事業に参加した加盟店は全国で約115万店。5%還元を行った中小企業や小規模事業者が105万店、2%還元を行ったチェーン店が5.2万店、コンビニが5.5万店。4月13日までにポイント還元対象のキャッシュレス決済は約40億回行われ、合計で約8.5兆円が消費された。還元額は約3530億円。

 決済に使われたのはクレジットカードが約11.6億回で消費額は約5.4兆円、電子マネーなどが約22億回で消費額は約2.5兆円、QRコード決済が約6.4億回で消費額は約6000億円。1回当たりの決済額は1000円未満が61%などとなっていた。

 キャッシュレスのメリットとして経済産業のサイトには以下の指摘があった。

 「キャッシュレスの推進は、消費者に利便性をもたらし、事業者の生産性向上につながる取組です。消費者には、消費履歴の情報のデータ化により、家計管理が簡易になる、大量に現金を持ち歩かずに買い物ができるなとのメリットがあります。事業者には、レジ締めや現金取り扱いの時間の短縮、キャッシュレス決済に慣れた外国人観光客の需要の取り込み、データ化された購買情報を活用した高度なマーケティングの実現などのメリットがあります。」

 消費履歴の情報のデータ化が消費者よりもキャッシュレスの仕組みを提供しているカード会社などの事業者へのメリットとなるものであろう。メリットというかそのデータそのものに価値があるとして、大規模なきキャンペーンも行っていた。

 つまりそれは消費者にすればメリットではなくむしろデメリットといえる。利便性と引き換えに自らの個人情報を引き渡していることになる。

 小売店などの事業者には、レジ締めや現金取り扱いの時間の短縮への利点があるとされるが、店側が負担する決済手数料がネックとなる。今回のキャンペーン後は店側が負担する決済手数料の引き上げが行われる。

 現金取引はその名の通り、現金がすぐに手に入るが、キャッシュレスは現金が入るまでのタイムラグが存在し、これもウイークポイントになる。

 キャッシュレス決済に慣れた外国人観光客の需要の取り込みというが、これは国によってキャッシュレス化に多様性があり、QRコード決済を増やせば良いという問題でもない。データ化された購買情報を活用した高度なマーケティングの実現とあるが、高度なマーケティングが実現可能なほど今回、データを集められた事業者がいたのであろうか。

 私自身、キャッシュレス化を目の敵とかにしているわけでは決してない。このようなキャンペーンなど張らずとも日本人はキャッシュレス化をすでに受け入れていると思っている。そもそもSuicaなどのFeliCaの技術は日本産であり、QRコードもしかり。

 商取引における現金部分については確かに日本の場合には現金そのものへの信頼性が高く、利便性もあるので使いやすく、これに取って代わるものがなかなか出てこないに過ぎないとみている。これは今後も大きくは変わらないのではないかと思う。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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