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金融政策決定会合の議事要旨にみる新型コロナウイルスによる経済へのリスク要因

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日銀は19日に4月27日に開催した金融政策決定会合の議事要旨を公表した。今回はこのなかから、経済のリスク要因についての議論に絞ってみてみたい。

 「委員は先行きの見通しは、新型コロナウイルス感染症の拡大が収束する時期や内外経済に与える影響の大きさによって変わり得るため、不透明感がきわめて強いとの見方を共有した」

 不透明感がきわめて強い状況下、中央銀行に求められる政策とは何かも問われよう。

 「何人かの委員は、仮に感染症拡大が収束に向かったとしても、パンデミックの再燃懸念から人やモノの移動が回復しないリスクがあるほか、所得の減少や資金繰り悪化を受けて、家計や企業の行動が以前より慎重化してしまうリスクがあると指摘した」

 二次感染の拡大が人やモノの移動の再度の制限に果たして繋がるのかは疑問である。現実としては、緊急事態宣言を何度も出すような事態はむしろ考えづらい。家計や企業の行動が以前より慎重化してしまうリスクはそのとおりだが、慎重に回復策を講ずることも求められる。

 「ある委員は、現時点における、日本経済の中長期的な見通しは、きわめて不確実性が高いため、楽観、悲観、両方のシナリオを想定することが可能であると述べた」

 そうであれば、両方のシナリオを用意すべきであろう。常に緩和策しか準備しないのは中央銀行の金融政策としては不公平のように思うのだが。

 「公衆衛生に配慮したサプライチェーンの再構築など、一定の変化は起こり得るため、先行きの不確実性は大きいと述べた」

 テレワークの拡大などを含めて、一定の変化が生じるであろうことも確かである。

 「ある委員は、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、人々の需要行動に構造的な変化が生じ、そうしたもとで企業や家計の中長期的な成長期待が低下する可能性があると指摘した」

 ところで、大胆な量的緩和の拡大を契機に、人々の需要構造に変化が生じ、企業や家計の中長期的な物価上昇期待が発生しない可能性は、これまで指摘はされなかったのであろうか。

 「これに対し、ある委員は、わが国経済への下押し圧力は、感染拡大防止策に伴い経済活動が制約されることによる面が大きいため、こうした短期的な経済の落ち込みが、中長期的な成長経路を規定するとは必ずしもいえないと述べた」

 私個人としてはこの見方に賛同したい。もちろん各種リスクがあることは、この議事要旨にも指摘があったとおりである。しかし、今回の経済への下押し圧力は人為的に生じさせたということも念頭に置いておく必要はあると思う。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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