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原油先物の6月限のマイナス化は回避、原油先物価格は安定を取り戻す

久保田博幸金融アナリスト
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 4月20日の原油先物市場では史上初となる事態が発生した。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物5月限が一時マイナス40.32ドルに下落したのである。原油先物の指標のひとつといえるWTIの先物価格が初めてマイナスとなってしまったのである。

 原油価格が下落した理由としては、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を抑制するためとしてのロックダウンなどによる経済活動の低下があった。これを受けて飛行機はそれほど飛ばない、人は移動しなくなるなどしたことで、原油そのものの需要が大きく後退した。さらに原油の供給も過多となっていたことで、需給バランスがくずれて原油先物は下落したのである。

 需要減と供給過多で原油価格の下落圧力が加わった。それでも何故、原油先物価格はマイナスにまでなってしまったのか。これには先物特有の事情が絡んでいた。

 4月に入り、米国内ではすでに原油在庫が貯蔵施設の能力の限界に達するとの見方が強まっていた。タンカーに積み込もうにも用船料が数倍に跳ね上がっていた。つまり供給過多で原油在庫が満タン近くとなっていた。

 そこにWTI先物5月限の取引最終日の4月21日が迫った。WTI先物には現引き、現渡しが存在しており、買い方はそのポジションを取引最終まで持ち続けると、現物つまり原油そのものを引き取らなくてはならない。しかし、それを貯蔵する手立てがなくなりつつあり、価格がマイナスでも投げ売る必要が生じた。そもそも原油を引き取るつもりもなかった投資家も慌てて売りを出したとみられる。WTIの取引がマイナスでも可能ということがわかったことも買い方を慌てさせた。その結果、WTIの先物価格が初めてマイナスとなってしまったのである。

 しかし、4月21日にザラ場でマイナス40.32ドルをつけたあとは原油先物は回復基調となってきた。WTI6月限は30ドル台を回復してきた。

 5月18日は、WTI先物6月限でいえば取引最終日の前日にあたっていた。つまり4月20日と同じく取引最終日の前日であった。

 2020年6月限の精算日は5月25日となるが、この日の米国市場は休場。25日が営業日でなければ、25日の前営業日(22日)から3営業日前となる日に取引が終了する。つまり、6月限の取引最終日は5月19日であった。

 19日のWTI先物は中国の石油需要がロックダウン前の水準をほぼ回復したと関係者が明らかにしたことなどが好感されて、原油先物は大幅続伸となっていた。WTI先物6月限は2.39ドル高の31.82ドルで引けていた。

 20日のWTI先物もやや乱高下はしていたが、WTI先物6月限はしっかりで引けており、4月20日のような波乱は今回はなかった。あれだけ大騒ぎした原油先物のマイナス化であったが、6月限は一転、落ち着いた動きとなったのである。

 これは原油の減産が開始されたことや中国の原油需要の回復による需給のバランスが回復したこともあろう。原油先物に連動する大手の上場投資信託は6月限のポジションをすべて売却していていたということも安定に寄与した可能性もある。結果からみれば、WTI先物の5月限がやや異常な状況にあったといえよう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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