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日本の巨額の対外純資産が円のアンカーなのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 今回の新型肺炎の拡大による影響を受けて、市場ではリスク回避の動きが出た。リスク回避の動きはリスクオフとも呼ばれるもので、典型的な動きとして、株は売られ、国債は買われ、外為市場では円やドル、スイスフランが買われる。

 今回の新型肺炎感染拡大は、日本を含む世界経済に悪い影響を与えかねないことで、中国や日本、そして米国や欧州などの株式市場が下落する。景気悪化により物価は低迷し、中央銀行は金融が緩和している状態を維持させることが予想され、国債の利回りは低下する。つまり国債価格は上昇する。そして、安全とされる円やスイスフラン、そしてドルなどが買われる。さらに商品市場では金などが買われる。

 これらはあくまでひとつのパターンに過ぎない。株は売られるといいながら、今回は米国や欧州の株価指数は最高値を更新する場面もあった。長期金利は結果的に低下し、米10年債利回りは再び1.5%程度にまで低下してきた。

 ところが、ここにきて特に外為市場で、このリスクオフの動きに変化が生じてきた。円が、ドルやユーロなど他の通貨に対して買われるのではなく、売られはじめてきたのである。スイスフランに対しても円は下落していた。

 そもそも何故、リスクオフで円が買われるというパターンが形成されてきたのか。ひとつの理由として、日本に対する信頼度の高さがある。これは日本の債務残高が1000兆円を超す発行残高となっているにもかかわらず、日本国債の利回りが低位というか10年債利回りがマイナスになっていることもそれを示している。むろん人為的に抑え込まれている面はあるにしろ。

 そして、円が買われやすい理由として、日本の対外純資産が巨額であり、この存在がアンカーになっているとの見方がある。これについては、やや疑問を感じる。

 日本の企業や政府、個人が海外に持つ資産から負債を差し引いた対外純資産残高が2018年末時点で341兆5560億円になった。日本は28年連続で世界最大の純債権国となっている。注意すべきは、「日本の企業や政府、個人が海外に持つ資産から」という点にある。政府の保有する資産だけでカウントされるのであれば、もしもの際にはその資産の裏付けがあるとの見方があるが、我々の個人資産や企業の資産についてはアンカーとみてよいのであろうか。

 よく日銀は政府の機関なのだから、日銀の保有する国債は政府債務と相殺できると言う人がいる。日銀が保有する国債の裏付けは、日銀の当座預金残高や現金となっているが、それは日銀のものではなく、民間金融機関の預金と現金である。それはつまり我々や企業の預金や現金で形成されている。

 もしもの場合、日本では個人や企業の資産を政府が没収できるといった法律でもあるのであれば別だが、そんな法律があれば当然、資産は海外に逃げてしまう。戦後の預金封鎖や財産税は非常時に起きたものであり、それを前提にして通貨や国債のリスクを認識するのはおかしいと思う。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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