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中国が紙幣を消毒する意味と、中国のキャッシュレス化事情との関係

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルス「COVID-19」の拡散防止の取り組みとして、中国は使用済みの紙幣を消毒し隔離する措置を取っている。中国の中央銀行が15日、明らかにした。各銀行は紙幣を紫外線または高温で消毒して密封。地域ごとの感染の深刻度に応じて7~14日間保管した上で再び流通させる(AFP)。

 果たしてこれが効果のあるものかどうかはわからない。WHOによると、新型コロナウイルスは感染者との濃厚接触や飛沫に加え、汚染された物に触れることで感染する可能性もあると指摘している。このため、少しでも感染拡大を防ぐなり、不安心理を和らげることになるのかもしれない。

 これが日本でも行われるのであろうか。感染拡大が拡がれば、日銀が対策を講じる可能性はあるかもしれない。ただし、中国と日本ではお札を取り巻く事情がやや異なる点にも注意したい。

 中国では急速にキャッシュレス化が進んでいる。このため、お札を洗浄しても意味はないのではとの見方もあるが、そもそも何故、中国でキャッシュレス化が進んだのか。それは急速な近代化に金融のインフラが付いていけなかった面がある。これは一般電話が普及していなかったところで携帯電話が急速に普及したことにも例えられる。

 お札は精密に印刷されてはいるが紙切れに過ぎない。これに信用を与えるのはそれを発行している中央銀行であり、発行や流通のシステム、いわゆる金融のインフラを整備しているのも中央銀行となる。日本ではある意味、それが高度に発展しているため、現金信仰が強い面がある。

 中国ではそのインフラの整備がそこまで進んでおらず、決済に現金よりもスマートフォンを使ったものが急速に拡大した。

 中国のお札を洗浄するという今回の取り組みは、裏を返せばそれだけ紙幣のよごれなどが目立っているためとの見方もできる。日銀は汚れたり破損したりした紙幣は比較的頻繁に回収し、新札に替えている。また、日本の紙幣はよごれが付きにくい性質を持っているともされている。このため、我々が使う紙幣は比較的綺麗なものが多い。紙幣は汚いものといった印象はあまり持ってはいないのではなかろうか。

 それでも紙幣は誰が持っていたものかはわからないので、今回のような新型肺炎の拡大のような状況では対策が取られることも考えられる。ただし、誰が持っていたのかはわからないということは、いわゆる匿名性を有していることになる。この匿名性はある意味、個人情報を守っている面もある。キャッシュレス化はこの匿名性を犠牲にしていることも注意する必要がある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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