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日銀のフォワードガイダンスを読み解く

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日銀は10月31日の金融政策決定会合で、現在の金融政策の維持を決定した。この際、新たな政策金利のフォワードガイダンスを決定した。

 フォワードガイダンスとは、非伝統的手段が講じられるなか、金融緩和の効果を強く及ぼすために、その緩和をいつまで行うという期間を明示したものである(拙著「図解入門ビジネス 最新中央銀行と金融政策がよくわかる本」より一部引用)。

 決定会合後の公表文には次のように書かれていた。

 『金融政策決定会合において、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れについて、一段と高まる状況ではないものの、引き続き、注意が必要な情勢にあると判断した。こうした認識を明確にする観点から、以下のとおり、新たな政策金利のフォワードガイダンスを決定した』

 物価安定の目標に向けたモメンタムについて、今回日銀は別紙での説明も行っているが、とにかく基調としては、一段と高まる状況ではないから今回は現状維持としたものとみられる。ちなみにモメンタムとは方向性や勢いという意味である。

 そのフォワードガイダンスがこちら

 『日本銀行は、政策金利については、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している。』

 これを見て最初に感じたことは当日のツイッターに書き込んだので、そのまま転記すると、

 『どうでも良いことながら、どうして「おそれ」を「惧れ」という漢字を使ったのかな。それはさておき、このガイダンス、モメンタムが損なわれる惧れに注意が必要なくなれば修正するよとも読める。これは追加緩和に前傾姿勢というよりも、引く準備もしていると読めなくもないのでは』

 この解釈に対してメディア各社は、ほぼ揃って、「将来的な追加緩和の可能性を示唆」と報じており、これは違和感を持った。

 「それを下回る水準で推移することを想定」という表現を捉えてのものであり、メディアが揃って追加緩和を示唆としていたが、そうなのかと個人的には思った次第。

 むしろ、モメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間は続けるよという点のほうにこそ、もう少し注意を向けるべきではなかったか。モメンタムが損なわれる惧れに注意が必要がなくなったらどうするのか、これは出口に向けた動きの可能性をも示唆するものではないかと個人的には捉えたためである。

 もちろん、表明文の最後には前回同様に、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じるとあり、やるときはやるよとの姿勢は見せてはいるが、今回のフォワードガイダンスの修正で、そのやる気の姿勢を強めたのかといえば、そうではないと私は解釈している。そもそも日銀による追加緩和は必要ないし、マーケットもそれを求めてもいない。東京株式市場や外為市場が日銀の決定会合の動向にほとんど無反応であった。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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