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物価安定の目標に向けたモメンタムとは何か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日銀の布野審議委員は、10月3日の「わが国の経済・物価情勢と金融政策」と題する講演にて、物価について次のように発言していた。

 「2%の物価安定の目標に向けたモメンタムは引き続き維持されていると考えています。ただし、世界経済を巡る下振れリスクは大きく、こうしたモメンタムが損なわれる可能性には注意が必要です」

 モメンタムとは方向性や勢いという意味となる。日銀の目標とする物価は消費者物価指数(除く生鮮食料品)となっている。直近では今年8月分まで発表されており、この一年間の消費者物価指数(除く生鮮食料品)の同年前月比を確認してみたい。

 2018年9月はプラス1.0%、10月もプラス1.0%、11月がプラス0.9%、12月はプラス0.7%、2019年1月がプラス0.8%、2月がプラス0.7%、3月がプラス0.8%、4月がプラス0.9%、5月がプラス0.8%、6月がプラス0.6%、7月がプラス0.6%、8月がプラス0.5%となっている。

 「2%の物価安定の目標に向けたモメンタム」とはいったい何を示しているのか、2%に向けたファンダメンタルが着実に形成されているというのであろうか。実際の目標とする物価の数字では、どちらかといえば下向きの圧力が掛かっているかに思われる。

 2%の物価安定の目標に向けたモメンタムは引き続き維持されていると考えているのは現実の物価指数からみればやや疑わしい。ここで追加緩和をしても、それでモメンタムに変化が生じるとか、物価の前年比の伸びが加速されることも考えづらい。

 金融政策運営に関するところで、布野審議委員は次のように発言していた。

 「物価安定の目標に向けたモメンタムが損なわれることが予見される場合には、それを未然に防ぐことが必要であると考えています。」

 あらためていったいモメンタムとは何を示しているのであろうか。それもはっきりしないなかにあって、損なわれることを予見するとはどのようにするのか。それを未然に防ぐことが必要であるとしているが、未然に防ぐ必要性とその方法そのものにも疑問が残る。

 国内景気の減速感が強まったり、円高圧力が強まったり、株価が急落したり、物価そのものが前年比マイナスになったりするという状況が、モメンタムが損なわれるということなのであろうか。

 そうであったと仮定して、それらを未然に防ぐことは本当にできるのか。そもそもそういった状況は予見可能なのか。たとえば、政策金利のマイナス幅を0.1%引き下げることで、それが可能になるとも思えない。結論から言えば、日銀は無理に動く必要はないと思う。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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