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米国利上げの早期打ち止め観測

久保田博幸金融アナリスト
FRBのパウエル議長(写真:ロイター/アフロ)

 FRBのパウエル議長は28日のニューヨークでの講演で、「金利は歴史的な基準ではなお低く、依然として経済に対して中立な水準を巡る幅広い推計値をわずかに下回る」と述べ、政策金利が景気をふかしも冷やしもしない「中立金利」に近いとも言及した(29日付け日本経済新聞)。

 市場ではこの発言を受けて、利上げの打ち止めが近いのではないかとの思惑が広がり、28日の米国株式市場は大きく上昇した。

 パウエル議長は10月の講演では中立金利には「まだ距離がある」と語っており、予定通りに利上げを進める方針を示したが、その「距離」が縮んできたように思われる。

 11月16日にFRBのクラリダ副議長がCNBCテレビのインタビューで、政策金利について「(景気を過熱も冷やしもしない)中立金利に近づいている」と述べていたが、パウエル議長の考え方がクラリダ副議長に近づけたとの見方もできる。

 11月8日に開かれたFOMCでは、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利誘導目標を2.00~2.25%のレンジで維持することを決定した。FRBは2020年まで利上げを続けて政策金利を3.5%まで引き上げるシナリオを中心路線としている。ただ、当局者は景気を過熱させず冷やしもしない「中立金利」を3.0%と分析している。

 市場では今回のパウエル議長の発言を受けて、2019年での4回の利上げはないのではとの見方となりつつある。政策金利が中立金利の3%までとなれば、あと3回から4回の利上げということになる。今年12月の利上げのあとは、来年の3月、6月あたりでのFOMCで利上げを決定して、そのあたりで終了かとの見方も可能となる。

 現実には12月のFOMCでの利上げは行っても、それ以降はかなり不透明感を強めることも予想される。今回のパウエル議長の発言の背景としては、トランプ政権への配慮といったものではなく、原油価格が大きく下落するなどしていることで、米国景気そのものの減速懸念などがあると思われる。そうであれば雇用統計など含めた経済指標での悪化が目立つようになれば、利上げを早めに停止してくる可能性はある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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