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マネタリーベースの月末残が500兆円超え、さらに増やす意味はあるのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 7月3日に日銀が発表した6月のマネタリーベースによると、6月の月末残のマネタリーベースが502兆9173億円と初めて500兆円を超えてきた。

 2013年4月に日銀は量的・質的緩和政策、いわゆる異次元緩和を決定した。この際にマネタリーベース・コントロールを採用し、マネタリーベースおよび長期国債・ETFの保有額を2年間で2倍に拡大するなどして、消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現するとした。

 量的・質的緩和政策を決定した2013年4月末のマネタリーベースの月末残は155兆2803億円となっていた。その2年後の2015年4月末のマネタリーベースは305兆8771億円とほぼ2倍近くなっていた。消費者物価指数(除く生鮮、コアCPI)でみると、2013年4月が前年比マイナス0.4%、2015年4月が同ゼロ%となっていた。

 その後もマネタリーベースは増加し続けるものの、コアCPIは再び前年比マイナスとなった。2016年1月に日銀はマイナス金利付き量的・質的緩和を導入、同年9月に長短金利操作付き量的・質的金融緩和を決定した。

 マネタリーベースは2016年6月に400兆円を超えてきた。この月のコアCPIは前年比マイナス0.4%となった。

 そして2018年7月にマネタリーベースの月末残が500兆円超えてきた。コアCPIは2018年2月に前年比1.0%と一時1%台に乗せてきたものの、ここにきてプラス0.7%とやや低迷している。

 これを見るまでもなく、マネタリーベースを急激に増加させても消費者物価を押し上げる効果があるようには見えない。

 日銀は2016年9月に決定した長短金利操作付き量的・質的金融緩和により、操作目標を量から再び金利に戻している。これにより長期国債の買入ペースをやや落としてきてはいるものの、大量の国債などの買入は続けており、その結果としてマネタリーベースも増え続けている。

 大量の国債買入とマイナス金利政策により金融機関の収益を圧迫するばかりでなく、債券市場の機能も急激に低下しつつある。見えない副作用が蓄積されるなかで、マネタリーベースをここから更に増加させる意味があるのか。あらためて問う必要もあるのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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