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日銀のステルステーパリングに過剰反応?

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日銀は1月9日の国債買入において、超長期ゾーンの国債買入額を減額した。残存10年超25年以下は1900億円と前回の2000億円から減額し、残存25年超も800億円と前回までの900億円から減額した。残存10年超25年以下の減額は2016年12月28日以来、残存25年超は2017年11月24日以来の減額となる。

 この減額は債券市場でもサプライズと受け止められたが、反応そのものはこれまでの減額時と同様にさほど大きなものではない。債券先物は売られたといっても9銭安での引けであった。10年債も売られたが0.010%上昇の0.065%と大きくは動いていないし、そもそも現物債は商いそのものが通常に比べても少なく、超長期ゾーンにもパラパラと売りが入った程度であった。つまり円債市場は大きくは動いていなかった。

 来年度の国債発行計画で超長期ゾーンも含めて発行額が減額されることもあり、どこかのタイミングでの減額は想定されていた。ただし、年末でもなければ年度末でもなく、このタイミングというのがやや意外性があり、さらに来年度の発行額で減額がない20年ゾーンも絡んでいたあたりに、小さなサプライズはあった。しかし、債券市場ではその程度であった。

 日銀は2016年9月の長短金利操作付き量的・質的緩和政策によって、政策目標を量から金利に戻している。「概ね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめどとしつつ」という数字は残したものの、約80兆円は目標数値ではない。すでに今年度ペースでは60兆円を割り込んでいる。日銀は金利をコントロールするために、国債買入額の微調整を行っているという格好ながら、現実には買入額を減少させている。これはステルステーパリングとも呼ばれているが、いまに始まったことではない。

 しかし、今回の日銀による国債買入の減額は、外為市場が特に反応を示した。ドル円が113円近辺から112円台半ばにドスンと下落したのである。さらには9日の米国債券市場で10年債利回りが2.55%と前日の2.47%から大きく上昇したのも、日銀のステルステーパリングがひとつの要因と指摘されている。

 9日の日銀の国債買入オファーのタイミングでのドル円のこの反応は、特に大きな材料もないなか、「国債買入の減額」という表現にシステム的な反応を起こした可能性もある。米債も売りのきっかけ待ちのところに、この材料に反応した面もあったのかもしれない。

 ただし、欧米の中央銀行が正常化に向けて舵を取ろうとしているなか、頑なに物価目標達成に向けて大規模な緩和策を継続する日銀に対して、海外投資家もこれはやはりおかしいと感じ始めている事も確かなのかもしれない。

 結果としてのステルステーパリングは、あくまで買い入れる国債に限界が見えてきたことによる。このため、量ではなく金利に再度着目し、2016年1月にマイナス金利政策を取ったら、金融界からの批判が集中、その批判をかわして、国債の買入額に縛られずにイールドカーブをスティープ化させるために編み出されたのが、長短金利操作付き量的・質的緩和策といえる。ある意味苦肉の策ではあったが、これが案外うまくいっているというのが現状である。ただし、これは正常化に向けた動きではない。

 それでも景気拡大時に非常時の金融政策を続けることに対してはやはり疑問は残る。世界的な景気拡大とそれを受けての原油高などによって物価がいよいよ上がってくる可能性も出てきている。日銀にとっては物価目標が達成されず、むしろ低迷し、長期金利が低位で押さえつけられる環境の方が実はベターであるともいえる。しかし、物価や金利を取り巻く外部環境が今後、劇的に変化してくる可能性もある。量については調整ができても、金利については物価目標達成が見えない限り調整はしないというのが日銀の現在のスタンスとみられる。しかし、果たしてそのスタンスがどこまで維持できるのか。市場も多少なり疑問を抱きつつあることも、今回の過剰反応に現れていたのかもしれない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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