マネーの膨張は何を招くのか

(写真:アフロ)

 日経新聞が11月14日から連載をはじめた「モネータ 女神の警告」という特集が面白い。14日の「第一部 異次元緩和の領域」ではいくつか興味深い指摘があった。

 そのひとつが、カンボジアでの通貨の流通のうち85%がドルであるとの指摘である。カンボジアの自国通貨のリエルは15%であるが、これは主に小額貨幣のセントが使えない分の代用になっているようである。カンボジアの地価は急騰し、バブルの様相を呈しており、FRBの出口戦略次第ではカンボジア経済に大きな影響を与えかねない状況になっている。

 もうひとつの興味深い指摘が、アップルの保有する1500億ドルもの社債である。保有社債そのものではなく、1500億ドルの余資を抱えている点に注意したい。余資は積み上がる一方となっている。これはもちろんアップルの業績好調による面が大きいものの、重厚長大産業のように巨額の設備投資が必要ないデジタル産業であることも大きい。米国経済を支えているのが、いわゆるハイテク産業であり、このような余資が積み上がりやすい環境となっている。

 さらに世界銀行の統計を基に2016年の通貨供給量が87.9兆ドルと日本円で約1京円に膨らんでいる点も指摘している。2000年代半ばまでは、この世界全体のマネーの増加と世界全体のGDPがほぼ同じ規模で膨らんできた。ところが、リーマン危機後の日米欧の中銀による金融緩和策によって、マネーだけが膨らみ続けGDPを大きく上回る状況となってきた。

 特集のタイトルにあった「モネータ」とは英語のマネーの語源となったラテン語だそうだが、そのマネーには3つの機能がある。価値の保存機能、交換機能(決済機能)、価値の尺度機能である。

 日本など先進国では長寿社会となり老後に不安を抱えた個人とともに、企業なども余資を蓄えている。これはマネーの保存機能を重視していると言えよう。金利は極めて低い状態となっているが、積極的な投資というよりも価値の保存が優先されているように思われる。

 カンボジアなどではマネーの交換機能を重視するあまり、他国通貨への依存度を深め、それは自国内で調整が利かないリスクを孕むことになる。

 マネーの価値尺度という機能面では、これだけのマネーの流通量がありながら、その価値を維持し続けている。つまりインフレが抑制されている。

 日本の物価の低迷の要因を含めて、1990年あたりからマネーを巡る外部環境が大きく変化した。このあたりを認識しておかないと、いまの置かれた状況が読めなくなる。さらに今後、マネーの膨張にブレーキが掛かることが予想され、その際に何が起きるのかも想定しておく必要がありそうである。

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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