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ウルグアイで法定デジタル通貨の運用が開始

久保田博幸金融アナリスト
(写真:アフロ)

 11月13日付け日経新聞によると、南米ウルグアイの中央銀行はブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用した「法定デジタル通貨」の試験運用を開始したそうである。携帯電話のネットワークを通じ、店舗での支払いや個人間送金が可能になる。

 ブロックチェーン技術を活用した電子通貨といえば価格が乱高下しているビットコインなどがあるが、法定デジタル通貨は民間ではなく中銀など当局が発行するものである。紙幣や硬貨は法定通貨と呼ばれるが、これに対し紙幣や硬貨を使わず、主にネット上でやりとりするビットコインなどは「仮想通貨」と呼ばれている。そして中央銀行が発行する仮想通貨は「法定デジタル通貨」と呼ばれている。

 法定デジタル通貨はスウェーデン中銀による「eクローナ」構想、中国人民銀行による「法定数字貨幣」の計画、オランダ「DNBcoin」の開発、カナダの「CAD-coin」など世界各国で研究が進むなか、実用化はウルグアイが初めてとされる。

 日経新聞によると、1万人を対象に、通貨ペソと同価値の法定デジタル通貨「eペソ」2000万ペソ(約7800万円)分を発行。利用希望者は専用サイトで登録し、携帯電話番号で管理するそうである。

「法定デジタル通貨」はどのような利点があるのか。これについては2016年11月に日銀が出していた「中央銀行発行デジタル通貨について」という日銀ビューに記載があった。

日銀ビュー「中央銀行発行デジタル通貨について」

 中央銀行がデジタル通貨を発行することのメリットとして主張される内容のひとつは、「紙の銀行券のハンドリング・コストや保管コストがますます強く意識されるようになっている中、中央銀行が最新の情報技術を活用してデジタル通貨を発行することは、ユーザーの利便性に資するとの主張である」

 ウルグアイが世界に先駆けて法定デジタル通貨の発行に踏み切った背景には、デジタル化による紙幣の維持コスト削減という目的があった。脱税や資金洗浄(マネーロンダリング)の防止にも役立つとの指摘もある。

 「中央銀行が自らデジタル通貨を発行すれば、紙のコスト故に銀行券が仮想通貨に凌駕されるといった事態を避けることができるとの主張」

 これについては特に金融政策の有効性を確保できるとの主張である。ただし、金融政策の有効性とは何かという課題も現在の異次元緩和を継続させている日銀は抱えているようにも思われるが。

 「さらに、中央銀行が自らデジタル通貨を発行すれば、仮想通貨との競争を受けたシェア低下による通貨発行益(シニョレッジ)減少を防ぐことができるとの議論がある。」

 日銀は具体的に「法定デジタル通貨」の発行について言及はしていないものの、研究はしているとみられる。他国に比べて紙の通貨への信認が非常に厚い日本ではあるが、「法定」デジタル通貨であれば、それが開始されると一気に普及する可能性は秘めているのかもしれない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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