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個人向け国債の販売が好調持続の理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 財務省のサイトには個人向け国債のページがあり、その中に「個人向け国債の発行額の推移」をクリックすると発行額のデータをエクセルファイルで確認することができる。

 個人向け国債は今年3月の発行額が9315億円となり、ここがいったんピークとなり、4月の発行額は2030億円に落ち込んでいたが、これには販売する金融機関側の事情もあった。

 個人向け国債は証券会社やゆうちょ銀行を含む銀行などが販売している。その際に販売額に応じて、財務省は金融機関に募集発行事務取扱手数料を支払っている。それが2017年4月発行分(3月募集分)から下記のように引き下げられた。このため金融機関は、個人向け国債が人気化しているタイミングで、しかも手数料が高いうちに積極的に大量に販売しようと、現金を贈呈するといったキャンペーンを強化したものとみられる(キャンペーンの原資は下記手数料となる)。

固定3年額面100円あたり40銭が20銭に

固定5年額面100円あたり50銭が30銭に

変動10年額面100円あたり50銭が40銭に

 2016年度の個人向け国債の発行予定額は3種類合計で4兆5556億円となり、2015年の2兆1367億円から倍増し、2007年度の4兆6617億円以来、9年ぶりの高い水準となっていた。

 2008年度以降、低迷し続けていた個人向け国債の発行額が何故、2016年度は大きく増加したのか。個人向け国債の発行額が低迷していた最大の理由が利率の低さにあった。利率の低い状態は2016年度も続いたが、日銀が2016年1月にマイナス金利政策を導入したあたりから状況が変わってきた。

 さすがに預貯金金利はマイナスになることはなかったものの、0.01%程度に低下したままとなっていた。周りの金利が下がったことで、個人向け国債の最低保証金利の0.05%が相対的に魅力的なものとなったのである。これが個人向け国債発行額増加の最大の理由となろう。

 今年の4月以降も日銀による長短金利操作付き量的・質的緩和策は継続しており、預金金利は低位のまま推移している。今年の4月の個人向け国債の販売額は3月の反動もあり、大きく減少し、5月も1895億円と減少していたが、ボーナス月となる6月募集の7月発行分は3256億円と3000億円台に回復していた。

 日銀による長短金利付き量的・質的緩和政策を受け、特に10年変動タイプに影響する10年債利回りは当面、ゼロ%近辺に押さえ込まれることになる。預貯金金利も0.01%近辺のまま推移するとなれば、個人向け国債の最低保証利回りの0.05%の見直し等がない限りは、相対的な優位さは継続する。このため金融機関の販売に対するインセンティブは手数料の引き下げで多少後退しても、個人投資家によるニーズの強さに変化はないとみられる。

 今回の衆院選挙の与党圧勝により、日銀の異次元緩和はさらに継続される見込みとなっている。低金利が継続され、個人向け国債の最低保証利回りの0.05%の見直し等がない限りは、個人向け国債の人気は継続するとみられる。来年度の国債発行計画のなかでも、個人向け販売分は今年度計画の3兆円程度になると予想される。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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