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北朝鮮のICBM発射実験による地政学的リスクの行方

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

7月4日に北朝鮮は、弾道ミサイル1発を日本海に向かって発射し、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験に成功したと発表した。ミサイルは核弾頭が搭載可能で3段式とみられ、核弾頭爆発装置の大気圏再突入に成功したとした。

北朝鮮がICBMの発射実験に成功したとなれば、レッドラインを越えたとの見方もでき、朝鮮半島で緊張が高まり、再び地政学的リスクが意識される。ただし、米政府がすぐに軍事作戦に踏み切るような可能性はいまのところ低く、当面はさらなる制裁の強化など外交的な努力を続ける方針とされている。週末にはドイツでG20首脳会議が予定されている。

ただし、今回の北朝鮮によるICBMの発射実験の成功は、日本や米国だけでなく、当然ながら韓国にも影響を与えよう。

ムン・ジェイン大統領は先日の米国のトランプ大統領との会談で、北朝鮮に自制を求めていたが、全くの徒労に終わった格好となる。ムン・ジェイン大統領は北朝鮮との融和を求めているようだが、それがいかに困難なものであるのかが示された。

北朝鮮によるICBMの発射実験の成功は、隣接する中国やロシアにとっても全く無視できるものではない。こちらも緊張が高まる可能性がある。ドイツでG20首脳会議ではトランプ大統領とプーチン大統領の初めての会談も予定されている。

北朝鮮によるICBMの発射実験はいずれ行われるであろうとの見方は出ていた。それによって米軍が直ちに軍事行動を起こすことはないとの認識も強かったようで、いまのところ金融市場への影響、たとえば地政学的リスクの増大によるリスクオフのような動きは限定的なものとなった。

ここにきての市場の注目材料としては、正常化に向けた動きを示し始めた欧米を中心とした中央銀行の今後の金融政策の行方となっている。イングランド銀行やECBは本当に正常化は可能なのか。正常化に向けた動きはかなり慎重になることも予想されるが、それでも欧米の国債利回りが上昇基調となっており、こちらの動向に注目が集まっている。

もし今後あらためて朝鮮半島の緊張が高まるようなことになれば、リスクオフ、つまり欧米の国債などは買い戻しの動きを強めることが予想され、その動きは日本国債にも多少ながら及ぶ可能性がある。ただし、いまところは欧米の国債利回り上昇に応じる格好で日本国債はやや売られている。ドル円もひとまず113円台で落ち着いた動きとなっているなどリスクオフの動きは見えていない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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