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6月の米利上げの行方

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

5月2日と3日に開催されたFOMCでは金融政策の現状維持を決定した。声明文では、「第1四半期の経済成長の減速は一時的である可能性が高い」とし「経済活動が緩やかなペースで拡大し、労働市場の状況はさらにいくらか力強さを増し」、その上で「インフレ率は中期的に2%近辺で安定すると予測している」としていた。

この声明文の内容からみて6月のFOMCでの利上げの確率は高いとみられる。利上げに向けた環境が整っているのであれば、何故5月のFOMCでは現状維持であったのか。これはFRBは公には認めてはいないものの、ある程度のルートマップが存在し、3月、6月そして9月のFOMCで利上げを行った上で12月のFOMCで保有資産の再投資を止めることで、膨らんだバランスシートの縮小に着手するのではとみられているためである。

3月、6月そして9月のFOMCで利上げを行うとの予想の背景には、年3回の利上げとしてバランスを配慮した面もあるかもしれないが、いずれも議長会見が予定されたFOMCであるということも絡んでいよう。ちなみに2013年12月のテーパリングの決定、2015年12月の政策金利の0.25%~0.50%への引き上げ。2016年12月0.50%~0.75%への引き上げ、2017年3月の0.75~1.00%の引き上げのいずれも、議長会見の予定されていたFOMCで決定された。

6月の利上げについて懸念材料となっていたのが、欧州の政治リスクであった。フランス大統領選挙でマクロン氏が勝利したことでユーロ分裂の危機は後退し、これもFRBの利上げの阻害要因とはならなくなった。

5日に発表された4月の米雇用統計では非農業雇用者数が21.1万人増と予想を上回った上に失業率は4.4%と約10年ぶりの水準に低下した。平均時給が前年同月比で2.5%増と前月から減速したものの、これも利上げにはフォローの要因となろう。

米議会の与野党は連邦政府の9月末までの支出をまかなう暫定予算案の内容で合意しており、政府機関閉鎖リスクも後退している。

12日に発表された4月の米消費者物価指数は前月比0.2%の上昇となり予想を下回ったが、これも6月の利上げの阻害要因とはならないとみられる。ちなみに前年比では2.2%の上昇。食品とエネルギーを除いたコア指数は前月比0.1%上昇。前年比では1.9%上昇となっていた。

米10年債の利回りの推移を見る限り、6月の利上げをそれほど織り込んでいるようには見えない。これは今回に限らずではあるが、欧州の政治リスク等もあったことでリスク回避から利回り上昇が抑えられていた面もある。FRBの正常化に向けた政策に対し過度な反応は避けているようにも見える。

いずれにしても現在の環境に大きな変化がない限り、6月のFOMCでの利上げ決定の可能性は高いと見ている。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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