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日銀のマイナス金利の深掘りが困難な理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

三菱東京UFJ銀行がプライマリー・ディーラーの資格資格を返上するとの報道があったが、この主たる理由は銀行が主に保有していた中長期の国債の利回りがマイナスとなったことで、国債での運用が難しくなったためである。これを日銀の言うところのポートフォリオ・リバランスの動きと見えなくもないが、少なくとも銀行とすればこれは積極的な動きというよりも、こういった環境下となってしまったことでの消去法的な動きとなったとみられる。マイナス金利は銀行にとって利ざや縮小どころか、運用リスクを高めるなどはっきり言えば、余計なことをしてくれたとのイメージではなかろうか。

銀行だけではない。年金や生保などの資金運用も同様に安全資産としての国債を新規で保有すると極めて小さな利回りか、マイナスの利回りで購入せざるを得ない。さらに外為市場の動きをみてもわかるがドル円は120円台から105円台、105円台から110円台とここ半年あまりでも大きな変動を見せている。この通貨の動きを的確に当てることなど困難であり、外貨建て金融資産を大量に保有するにしても為替リスクは常につきまとう。また国債と同規模で株式などを購入するとなれば、こちらも信用リスクや価格変動リスク等を抱え込むことになる。

日銀は6月、もしくは7月にも追加緩和を決定するとの見方は市場参加者でも多い。先日のQUICKの緊急アンケートにおいても、消費増税の再延期を踏まえ、5割以上の市場参加者が6、7月の決定会合において追加緩和ありと答えていた。

私は6、7月どころか年内含めて日銀が追加緩和に動くことはかなり困難であるとみている。その理由としては追加緩和手段として準備したマイナス金利の深掘りができないことにある。もちろんマイナス金利の深掘りを日銀がやろうと思えばできようが、市場も政府も海外もそれは望んでいない。さらに1月に日銀がマイナス金利を導入した事実そのものが、深掘り以外の手段がほぼ限界近くに達していることを意味していることで、マイナス金利の深掘り以外の手段も限られた状態にある。

銀行や生保などはこれ以上のマイナス金利の深掘りには賛成はしてこないと思われる。さらにマイナス金利に対してマスコミ含めてかなり批判的な声が強まっているなか、参院選を控え政府としても余計なことはやってくれるな、との立場にいるのではなかろうか。自民党が発表した7月10日投票の参院選挙の公約に金融政策への言及が盛り込まれなかったことからもこれは垣間見える。さらに通貨政策に絡んで米国などを中心に円安を意識したような追加緩和政策は打ちにくい。

それよりも、ここでマイナス金利の深掘りをする意味がほとんどないという状況も存在する。何でも良いから追加緩和をすれば良いというのであれば、それはそれでアナウンスメント効果という意味ではありかもしれないが、仮に金融市場を通じて実質的な何らかの効果を狙うとしても、ここからのマイナス金利の深掘りに効果は求められない。つまり国債のイールドカーブをここからさらに引き下げても実質的な効果は出ない。

これは日銀が想定していた以上に1月のマイナス金利政策で日本の国債利回りが急低下してしまったためである。ドイツのようにECBが政策金利を深掘りし、10年債利回りが過去最低は更新しても、いまだ10年債利回りがかろうじてプラスであれば、長期金利の引き下げ余地はあるかもしれない。

しかし、日本の長期金利はすでにマイナス0.1%台にある。これをマイナス0.2%にして何らかの意味があるとは思えない。日銀のマイナス金利政策により意味があるのはプラスの金利をマイナスにすることにあったはずである。しかし、これが日銀の想定以上のピッチで進んでしまい、10年債利回りがあっさりマイナスとなってしまったのである。

これがマイナス0.2%に低下しても、たとえば住宅ローン金利や貸し出し金利がマイナスになるようなことがなければ、これによる引き下げ余地は極めて限定的となろう。仮にこれらの金利をマイナスにするとなれば預貯金金利もマイナスにする必要性が出てくるが、それはマイナス金利政策への批判をさらに強めさせることにもなりかねない。

ちなみにECBのドラギ総裁は3月の追加緩和を決めた理事会後の記者会見で、事実上の利下げ打ち止め宣言を行っている。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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