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日銀のCP買入で札割れが生じた理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

日銀が3月28日に実施したCPの買入において奇妙なことが発生した。当初買入予定の6000億円分のうち、応札は6449億円あったにも関わらず、購入額は5304億円と予定額を割り込み札割れとなったのである。

CPとはコマーシャルペーパー(Commercial Paper)の略で、企業が割引方式で発行する短期社債である。CPは金融機関や一般企業が資金を調達するために発行しているもので、このため信用リスクなどから、本来であれば発行する企業の信用度に応じて金利が決定されているはずである。ところが日銀のマイナス金利政策によって、国債の利回りがマイナスとなったことで、CPの利回りもマイナスとなっている。日銀が買入の対象としてCPも加えており、日銀がより高い値段(低い利回り)での購入をすることにより、信用リスクが見えなくされて、マイナス金利での取引が生じている。

つまり業者がマイナス金利でも国債やCPを買うのは、国債の大量購入を続ける日銀がより高い値段で買ってくれるという前提があるためである。日銀に対する売却インセンティブが生じるとの認識があってこそ、マイナス金利でも業者などはいったん購入し、それを日銀の買いオペにぶつける格好となっている。

ところが今回のCPの買入においては、CPの金利そのものの急低下により、初めて債券購入で金利に下限を設ける格好となった。マイナス0.647%以下の応札を購入の対象外としたのである。もちろんこれは日銀にとって損失を一定に食い止めたいとの意向があったのかもしれないが、これは確実に日銀に売れると践んで購入している業者に不安をもたらす懸念がある。もちろんそれ以前の問題として、このようなマイナス金利で日銀が購入し続ければ、市場の金利形成をゆがめる懸念がある(すでにかなり歪められてはいるが)。

日銀はどんなマイナス金利でも購入するわけではないということが、CPだけでなく国債にもいずれ適用されるとなれば、日銀が必要とする残高目標まで買入が可能なのかという疑問も生じかねない。

多層式のマイナス金利政策という絡め手を出した日銀ではあるが、本来は水と油のような性格であるところのマイナス金利と量的緩和は相性が悪い。もし今後、日銀が追加緩和としてマイナス金利をより深掘りしたり、量を拡大すればするほどこの矛盾が拡大し、国債の買い入れにおいても札割れが頻繁に発生する懸念が強まることになる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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