中央銀行の物価目標の意味
ECBのドラギ総裁は21日の理事会後の会見において、「インフレ率がしばらくの間低水準にあり、それが原油主導だとしても長引く低インフレがインフレ期待を動揺させ持続する恐れがある」と指摘した(ブルームバーグ)。
さらに「エネルギーと食品を除くコアインフレも低いという事実によってそのリスクは高まっている。コアインフレ率はわれわれの目標ではないが、総合インフレ率を中期的に導く傾向がある」と付け加えたそうである(ブルームバーグ)。
ECBはユーロ圏の消費者物価調和指数(HICP)で年%を下回る上昇率を物価の目標値としている。
FRBも2012年1月のFOMCで、FRBは物価に対して特定の長期的な目標(ゴール)を置くこととし、それをPCEの物価指数(PCEデフレーター)の2%とした。
日銀は2012年2月に物価安定の目途(コアCPIの1%)を示すことにより実質的なインフレ目標策を導入したが、それを2013年1月に2%の物価目標にバージョンアップした。
英国では財務省が「物価の安定」の内容を決定しており、2004年1月以降は消費者物価指数(CPI)で2%とされている。
この2%に何らかの意味があるのか。日銀からはグローバルスタンダードであるためとの説明がなされていた。
FRBの政策目標はデュアル・マンデートとも呼ばれるように物価安定と雇用最大化を促す目標となっている。2015年12月にFRBが利上げを決定したのは、物価目標(ゴール)は達成していなかったものの、雇用が回復していたことが理由となっている。
たしかに物価という面からはここにきての原油安もあり、日米欧の中央銀行は目標に届かないどころか、非常に低い水準にいる。しかし、雇用という面からみると米国だけではなく欧州も日本も回復基調にある。
それが賃金上昇に結びついていないことで、日銀総裁が新年の連合の会合で「物価の上昇に見合った賃金の上昇がなければ経済は持続しない」と述べるなどしていた。日銀は目標を物価ではなく賃金にするべきという異論まで出ている。
日銀がどのように金融政策で賃金に働きかけるのかはさておき、金融政策でそもそも物価に働きかけられるのかというのは大きな課題である。その壮大な実験を行ったのがアベノミクスの一役を担った黒田日銀であり、二度にわたる異次元緩和であった。しかし、その結果は2年で2%どころかゼロ%近辺となった。
そもそも日銀はマネタリーベースを膨らませることでインフレ予想に働きかけようとしたが、ECBはマイナス金利政策をとってむしろマネタリーベースを抑制するかのような政策をとるなど、目標は同じでも手段が真逆になっている。
バーナンキ元FRB議長は金融政策の98%は市場との対話だった、行動は2%に過ぎなかったと述懐しているそうである。要するに金融政策は対話を通じて金融市場そのもの、つまり長期金利や株価、通貨価値に働きかけることで効果を出すということであろうか。そうであれば目標達成のためにはいったん市場を経由させる必要があるということになる。
その市場が果たして中央銀行の金融政策の在り方をどう認識しているのか。その意味では12月のECBの追加緩和と日銀の補完措置に対する市場の反応は興味深い。市場も中央銀行の物価目標達成に向けたそれぞれのロジックに対して疑問を抱きつつあるように思われる。その意味ではいち早く正常化に向けて動きを示したFRBは正解だったのではなかろうか。今後もしECBや日銀が物価目標を意識して追加緩和を模索するのであれば、この市場との対話が大きな焦点になるように思われる。