アベノミクス相場の終焉で日銀は動くのか
8日に発表された12月の米雇用統計では、非農業雇用者数が29.2万人増と市場予想の20万人増を大きく上回った。10月、11月も上方修正された。暖冬の影響で建設業など主体に増加したようである。失業率も5.0%と低水準を維持している。時間当たり賃金は前月からわずかながら減少した。賃金は前年比で2.5%の増加となり、前月の2.3%から伸びが拡大した。
これを受けて8日の米国株式市場は買いが先行したものの、中国経済への警戒感などにより戻り売りに押され、前日比167ドルの下落となった。FRBの利上げペースが意識された可能性はあるものの、米国経済の堅調さよりもリスク回避の動きが意識されたようである。11日のダウ平均は52ドル高とやや戻したが、12日の東京株式市場は売りが先行し、日経平均は一時500円を超える下げとなった。いったん押し目買いが入るとは思うものの、チャート上からは、いずれ日経平均は17000円割れを試してくる可能性が高そうである。
そして、12日には原油先物市場ではWTI先物が一時29.93ドルを付け、12年ぶりに30ドルを割り込んだ。
株安や原油安などの一連の動きの背景には、中国経済への懸念によるリスク回避の動きがある。このため外為市場では円高圧力が強まり、ドル円は12月はじめの123円台から一気に下落(円は上昇)し、一時117円を割れとなった。
今年のドル円の予想は円安と円高に極端に分かれていたが、いまのところは円高に軍配が上がった格好となっている。ただし、この円高傾向についてはリスク回避以外に説明が難しい。ただし、チャートのトレンドが変化しつつあることは確かではなかろうか。
ドル円のチャートを少し長めのタームでみてみると、2012年10月あたりで円高トレンドが修正されて、円安が急速に進行する。いわゆるアベノミクスをきっかけとしての円高調整の動きとなった。その円安がいったん105円近辺で落ち着くが、2014年9月あたりから再び円安が進行する。FRBの利上げ観測によるドル高であったが、そこに10月の日銀による異次元緩和第二弾が加わり、ドル円は120円台に乗せ、2015年6月に125円台をつけたところでピークアウトした。
このあたりからドル円の上値が重くなったのは、黒田日銀総裁の発言による125円ラインが意識されたこともある。これ以上の円安を望んでいないとする政府の意向も意識された。そして、FRBは2015年12月のFOMCで利上げを決定し、思惑で買われたドルが真実で売られた格好となった。さらに懸念材料として中国経済への不安感が再び台頭。人民元の引き下げなどをきっかけに中国の株式市場が急落し、チャイナショックが起きた。サウジアラビアとイランとの国交断絶や北朝鮮による水爆実験とされる核実験による地政学的リスクなども加わり、リスク回避の動きの強まりで東京株式市場は下落し、それとセットにドル円も下落した格好となった。
ドル円の月足チャートをみると、2014年12月あたりから2015年12月あたりまで120円台で天井圏を形成し、そこから下抜けしようとしている格好となっている。これは2011年8月あたりから2012年10月あたりまで70円台主体に底値圏を形成してからの反発の裏返しのようなチャート形成となっている。
あくまでチャート上からではあるが、ドル円はさらに下落することが予想され、目先の目処としては110円割れあたりまでありうるか。ドル円が110円近辺まで下落したとして、政府や日銀は何らかの対策を打ち出すのであろうか。
経済政策を前面に打ち出している安倍政権としては、円安・株高を背景としたアベノミクスが政権安定の基盤ともなっている。今年7月には参院選挙も控えている。
そのなかで原油価格の下落は続き、日銀の物価目標達成時期予想も先送りせざるを得ない状況となっている。日銀の金融政策決定会合は今年から8回しかない。参院選までは1月、3月、4月、6月の4回が予定されている。そのうち1月と4月には展望レポートの公表がある。
日銀にとり打つ手は限られている。それでも12月の異次元緩和補完措置により国債の買い入れ余地を拡げた、これは2016年の国債買入をスムーズにさせるものではあろうが、これを追加緩和に使ってしまう可能性もないとはいえない。ただし、二度の異次元緩和ほどのバズーカ砲は撃てない。仮に日銀が円高株安と原油安による物価下落に対応するための措置として追加緩和を決定したとして、12月のECBの追加緩和の際と同様に期待外れといった認識をされる可能性は高い。それ以上の追加緩和がさらに困難になるとして、むしろ円高圧力が強まる可能性もありうることにも注意が必要となろう。