日銀の現状打開策
10月27日の朝日新聞電子版によると、日銀は30日の金融政策決定会合で、追加の金融緩和を議論するそうである。「日銀内で浮上しているのは、追加緩和で企業心理を改善させ、賃上げを促す構想。新興国経済の減速で国内景気の先行きに不透明感が出て、物価の上昇要因となる賃金の伸びが鈍る懸念があるためだ」(朝日新聞電子版より)。ただし、追加緩和を不要とみる会合の委員もいて、結論はなお不透明のようである。
日銀の追加緩和に関しては、リフレ派の重鎮ともいえる浜田宏一内閣官房参与が、26日にロイターとのインタビューで、市場で追加金融緩和観測が広がっている30日の日銀金融政策決定会合では、雇用情勢の改善が続く中で日銀が追加緩和を見送る可能性があるとの見解を示していた。
本田悦朗内閣官房参与も、23日に停滞する日本経済の再生のために最大5兆円規模の追加的な財政出動策を打ち出す必要があるとしたが、日銀が新たな措置を講じなければならない状況にはないとの見方を示していた。
浜田参与や本田参与がどの程度の影響力を保持しているのかは不透明ながら、10月30日の日銀の追加緩和にはそれほど積極的にプレッシャーを掛けているわけではなさそうである。
10月30日の日銀の金融政策決定会合後には、展望レポートが発表され、物価の見通しなどが下方修正される予想となっている。市場では物価目標達成に向けて追加緩和を決定するのではとの観測も出ているが、現在の日銀にはいろいろと足かせがあり、追加緩和そのものはなかなか難しい状況にある。そのなかで、日銀内部では少しでも動きをとれるようにしようとする動きが出ていてもおかしくはない。その一環が、朝日新聞の記事からも垣間見えるのではなかろうか。
リフレ的な考え方を取り入れたアベノミクスを具体化したのが、日銀の異次元緩和であった。これはマネタリーベースを単純に膨らませるだけで、結果として物価が上昇するということを前提にしている政策であった。しかし、そのシナリオには無理があったことは確かであり、日銀の金融政策で直接物価上昇を促すことは結果をみても難しいことがわかった。このため、賃金上昇というワンクッションを置くことをあらためて意識しているとみられる。
ただし、浜田参与の発言にもあったように、日銀としても雇用情勢の改善が続いているというのが現状認識となっており、これは黒田総裁の発言にもみられる。しかし、それがなかなか賃金上昇に結びつかない現状を金融政策という手段で、何とかなるものであるのか。単純に国債買入をさらに10兆円程度増加させたとしても、これまで2回の大規模な買入の結果からみても、影響が出るようには思えない。ETFの買い増しとかは物理的に限界もあるとともに、企業経営者がそれで賃金を上げるかどうかの判断はまた別物であろう。
日銀が追加緩和策を検討するとなれば、これまでの二度にわたる異次元緩和とは趣を異にする政策を打ち出す必要がある。それは単純に量によるものとはならないのではなかろうか。大規模な異次元緩和で、できなかった企業心理の改善のための新たな施策、どのような絡め手を検討しているのかは定かではないが、10月30日の会合で披露されるかはさておき、日銀が何らかの現状打開策を検討していることも確かなのかもしれない。ただし、それはアベノミクスの前提となっているリフレ政策の効果に対して疑問を投げかけることにもなろう。