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日銀は出口を意識した政策に転換すべき

久保田博幸金融アナリスト

日銀の黒田総裁は、4月15日の信託大会における挨拶において、「消費者物価の前年比は、原油価格下落の影響が剥落するに伴って伸び率を高め、2015年度を中心とする期間に2%に達する可能性が高いとみています」と述べていた。

2013年4月4日に日銀が量的・質的緩和、いわゆる異次元緩和を決定した日の総裁会見では、黒田総裁は次のように述べていた。

「2%の物価安定の目標について、2年程度を念頭に置いて実現する。そのために必要な置は、ここに全て入っていると確信していますし、実際に、2年程度で物価安定目標を達成できるものと思っています。」

そして、2014年10月31日に量的・質的緩和の拡大を決定した際の会見で黒田総裁は次のように述べていた。

「昨年4月に「量的・質的金融緩和」を導入した直後の展望レポートでは、2014年度、2015年度の見通し期間の後半にかけて2%程度に達する可能性が高いとしていました。その後、本年4月の展望レポートでは、見通し期間が2016年度まで延長されましたので、2014年度から2016年度までの見通し期間の中盤頃に 2%程度に達する可能性が高いとしていました。今回の展望レポートも全く同様に、見通し期間の中盤頃、すなわち2015年度を中心とする期間に 2%程度に達する可能性が高いとみており、そういった見通しに変化はありません」

上記の発言と先日の信託大会における総裁の発言は「2015年度を中心とする期間に 2%程度に達する可能性が高いとみている」ということで一致している。これで何か問題があるのかと問われれば、当然ある。発言のタイミングが異なるためである。

昨年10月における2015年度を中心とする期間には2014年度も含まれるような意味合いがあるが、この発言がすでに2015年度に入ってからでは、そこからさらに1、2年との意味合いに変わってくる。同じ発言ではあるが、そのタイミングの違いにより、目標達成の時期の範囲が拡大されることになるのではなかろうか。

ここで言葉尻を捉えて黒田総裁を責めるつもりはない。しかし、このまま目標が達成できないとなれば、現在の異次元と呼ばれる異常な金融政策を半永久的に続けざるをえなくなる。それが問題ではなかろうか。そもそも異次元緩和により物価上昇期待が拡がっていたわけではないことは、目標とする物価そのものが上がっていない以上、明らかになっている。

アベノミクスの提唱者の一人である浜田宏一内閣官房参与は「インフレ目標はそんなに重要ではない」とまで言い切っている。そうであれば、ここからさらに無理をする必要性もない。このまま物価目標が達成できないとして、さらに追加緩和を繰り返すようなことになれば、財政ファイナンスとの認識を強めさせ、取り返しの付かない状況に日銀自らが追い込まれる懸念すらある。

物価上昇を経由せずに、株高や円安、雇用の回復、景気の回復を、異次元緩和の効果や結果とするのはあまりに都合が良すぎるものの、それでも結果オーライとして、日銀はある程度の目標は達成できたとして、出口を意識した政策に転換すべきと提言したい。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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