物価目標未達に対する日銀の説明責任
日銀の岩田規久男副総裁は最近、朝日新聞と単独会見で、次のような発言をしていた。
「日銀は「2年程度で物価上昇率2%」の目標を掲げ、2013年4月から大規模な金融緩和を始めた。この間、生鮮食品を除く消費者物価の前年比の上昇率は、13年3月のマイナス0.5%から、1年後にはプラス1.3%まで上がった。これらのことから、岩田氏は「総合的に見れば所期の効果を発揮している」と大規模緩和を評価した。」
「大規模緩和の効果は、消費増税による消費の低迷や原油安の影響を除いてみるべきで、物価が「2%に向かって上昇し続ける基調には変化がない」と主張した。」 (以上、3月25日の朝日新聞の電子版より一部を引用)
岩田副総裁は以前に、下記のような発言をしていた。
「インフレターゲットは、一国の中央銀行が物価の安定に全責任を持ってコミットし、おおむね2年以内の目標達成を目指す政策です。それができなかった場合、中央銀行は厳しい説明責任を問われます。」(2013年3月1日のダイヤモンドオンラインの記事より引用)
「名目成長率目標を達成するために必要なマネタリーベースの伸びを推計するマッカラム・ルールなどに基づけば、2%達成は「2015年4-6月期になる計算だ」と試算した。」(2013年6月24日のロイターとのインタビュー記事より)
現在の日銀が掲げる物価目標に対しては、2月の消費者物価指数が前年比でゼロ%になっている。ここから急激に消費者物価が2%に向けて短期間に急上昇することはかなり困難であり、おおむね2年以内、つまり2015年4月~6月期の目標達成はきわめて困難となろう。それができなかった場合、日銀は厳しい説明責任を問われてもおかしくはない、と岩田副総裁は過去に主張していた。
異次元緩和が開始されて、消費者物価指数(コア指数)は2013年4月の前年比マイナス0.4%がいきなり5月にゼロとなり、それ以降前年比プラスに転じ、2014年4月には前年比プラス1.5%となった。ここまでを見る限り、総合的に見れば所期の効果を発揮しているとの評価が数字上では可能となる。
しかし、そもそも金融政策の効果が発揮されるには一定のタイムラグが存在していたはずであるが、そのラグなしでいきなり効果が発揮されたような格好となった。2012年11月の安倍自民党総裁のリフレ発言で、インフレ期待が高まりその効果が発揮されたとの見方も可能かもしれない。しかし、期待などよりも急激な円安や株高による現実的な影響が大きかったのではなかろうか。さらにここには原油価格の高止まりもあり、原油の輸入に頼る日本ではエネルギー価格の上昇による影響も大きかったはずである。
ところが2014年4月のコアCPIの前年比プラス1.5%をピークに前年比は縮小する。本日発表された2015年2月のコアCPIは消費増税の影響を除いて前年比ゼロ%と、2013年5月の異次元緩和導入直後の水準に後戻りしてきた。これについてはどのような説明がなされるのであろうか。
岩田副総裁は大規模緩和の効果は、消費増税による消費の低迷や原油安の影響を除いてみるべきと主張するが、そもそもそのような要因如何にかかわらず、計算上はすでに2.0%の目標はほぼ達成されるはずではなかったのか。さらに日銀は今後の物価目標達成の前提として原油価格の反発を指摘していることと矛盾しないか(原油価格が現状程度の水準から先行き緩やかに上昇していくとの前提)。
また、2015年2月の食料及びエネルギーを除くコアコア指数も消費増税の影響を除くと前年比ゼロ%となっていることはどのように説明がなされるのであろうか。このあたり、副総裁がご自分でも主張されていたように、しっかりとした説明を行う責任が日銀にあるのではなかろうか。