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日本の長期金利が過去最低を更新した背景

久保田博幸金融アナリスト

2014年12月25日に日本の10年国債の利回り(長期金利)は0.310%に低下し、2013年4月5日につけたこれまでの最低となっていた0.315%を下回り過去最低を記録した。26日には0.300%まで低下した。25日には2年国債の入札があり、そこでの平均落札利回りはマイナス0.003%となり、利付国債の入札としては初めてのマイナス金利が発生した。

ここまでの日本の金利低下の背景にはいくつかの要因が考えられる。最も影響力があるのが、日銀の異次元緩和による新規発行額に相当する国債の買入である。これにより、需給面ではほとんど不安なく、マイナスであろうが需要があれば買われる状況となっている。

その国債への需要であるが、日本でのマイナス金利の背景には海外投資家の存在がある。今年の夏以降、為替スワップ市場において、ドルの超過需要が強まったことを背景に、円投ドル転コストが上昇し、その分がジャパンプレミアムのようなものとなった。ドルを保有する外国投資家が、為替スワップを通じて非常に安いコストでドルを円に転換できるため、外国投資家は、レートがマイナスの国債に対して、マイナスのコストで調達した円を投資したのである。為替スワップによる円の調達コストが大きなマイナスであれば、マイナス金利であっても利鞘は取れる。それが日銀の追加緩和の影響も手伝い、3か月物から1年物におよび、ついに残存4年近くにまでマイナス金利が波及しつつある。

国債入札に参加するのは証券会社を中心とした業者である。いくら海外投資家のニーズがあろうと限度はある。国債には担保需要などもあるがそれでも限界はある。しかし、マイナス金利が実勢としてついている以上、日銀の国債買入もその実勢利回りに近いもので行われる。業者としては入札で落として保有しても、いずれそれは日銀に実勢利回りで売却できる安心感があり、積極的に応札できることになる。

長期金利の低下要因としては、欧州各国の長期金利の低下、なかでもドイツの長期金利の低下の影響も受けている。ECBも日銀やFRBに追随して国債買入を中心とした量的緩和を実施しようとしている。それで国債が買い進まれているが、その国債が買われる背景に物価が上がってこないディスインフレという状況もある。

そのディスインフレへの懸念は日本でも再び強まりつつある。日銀は2013年4月と2014年10月に二度の異次元緩和を決定した。大胆な国債の買入などを行えばレジームチェンジが起き、インフレ期待が強まり物価は2013年4月から2年程度で目標の2%に達成できるというのが、日銀の意気込みであった。

2014年12月26日に発表された11月の全国消費者物価指数(除く生鮮)は消費増税の影響分を除くと、前年比プラス0.7%と前年比はさらに縮小した。今年4月にはプラス1.5%にまで回復し、日銀の異次元緩和によって順調に物価が上昇しているかに見えたが、それは錯覚であった。たまたまその時期に急激な円安等で物価が上がりやすい状況が起きただけであったようである。その後は原油価格の下落も手伝っての物価の上げ幅縮小となった。期待はどこに行ったのであろうか。物価の伸びが低迷していることでドイツなど欧州の長期金利が低下しているが、日本もこのCPIを見る限り同様の理由で長期金利が低下している面がある。

長らく日本の長期金利を見てきたが、長期金利は素直というか、正しく環境を反映していたのだと思う。日銀が国債を大量に買っているから金利が抑えられるというのはあくまで需給面の話であり、結果論ながら、日銀が何をしようが、いまの環境下、物価は簡単に上がるわけではないことを長期金利は示していたと言える。

すでに残存4年弱の国債利回りがマイナスとなっているが、これがさらに長い期間の国債に波及してくることも予想される。残存7年の国債に連動する債券先物は6%クーポンの標準物の売買となっており、100円の6%の10年分の利子の合計60円を加えた160円が上限となっている。ここを超えるとマイナス金利ということになる。160円という上限を超えるなんてことは私が債券先物を売買していた当時は想像すらできなかったが、それが現実味を帯びてきた。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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