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市場が日銀や安倍政権に牙をむく可能性

久保田博幸金融アナリスト

11月21日の衆院解散により、選挙戦に突入する。今度の選挙については策士策に溺れてしまったような気配が出てきた。そもそも安倍政権にとって時間とともに支持率低下が避けられないとの見立てもあっての今回の解散総選挙ともみられ、2年前の選挙と打って変わり、攻めの選挙から守りの選挙となる。前回の選挙は与党であった民主党を攻撃し撃破した。今回は何から守るかといえば、野党というより国民の支持の低下から身を守ることになろう。

朝日新聞は19、20日に全国緊急世論調査(電話)を実施し、この結果、安倍内閣の支持率は39%で、不支持率は40%となり、第二次安倍内閣発足以来、初めて支持と不支持が逆転した。この時期に解散・総選挙をすることについては反対が62%で、賛成の18%を大きく上回った。消費増税延期に関する首相の判断を評価するは33%で、評価しないの49%の方が多かったそうである。

さらに安倍首相の経済政策、つまりアベノミクスは成功か失敗か尋ねたところ、成功だは30%で、失敗だの39%方が多かったそうである。その他・答えないも31%に上り、判断がつかない人も多かった。

この朝日新聞の世論調査を見る限り、今回の選挙は与党自民党にとって、かなりの逆風になる可能性がある。ただし、相手となる野党の魅力も薄く、上記の世論調査の結果でも、比例区投票先を政党名を挙げて聞いたところ、自民37%、民主13%となっているように、自民党が優勢であることは確かである。

民主党に対する風当たりも引き続き強いものがあり、選挙の行方については自民党が若干の議席を失うだけとの見方も強く、そうなれば安倍首相の思惑通りとなる。果たしてそううまく行くであろうか。

11月20日の夕方、ドル円は一時119円近くまで進んだ。ドル円だけでみれば、日銀とFRBの金融政策の方向性の違いによる動きとみることもできる。しかし、円はユーロに対しても下落し、ユーロ円は一時149円台に乗せていた。ECBの追加緩和観測も出ているにも関わらずである。また、同じ安全通貨とされているスイスフランに対しても円は下落するなど、単純に金融政策だけでの動きとも思えなくなってきている。

もちろん日本国債はいまのところ微動だにせず、日本売りが始まっている気配はない。しかし、ヘッジファンドなどが日本国債よりも先に円を切り崩しに掛かる可能性もありうる。格付け会社も日本の格付けを再確認しようとするなど、消費増税の延期は次の再延期は認めないとしても、財政規律の緩みを感じさせる。しかも、その前に日銀は30兆円もの国債残高の積み増しを決定している。

このあたりからもヘッジファンドなどが付け入る隙をみせてしまっているように思われる。場合によると1992年のイングランド銀行とヘッジファンドの攻防戦のように事態が起きる可能性もないとはいえない。この際にはジョージ・ソロスなどのヘッジファンドがイングランド銀行を打ち負かしていた。安倍政権は市場をうまく味方につけた結果、円安株高を背景に高い支持を受けた。その市場が日銀や安倍政権に牙をむく可能性がないとは言えない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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