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債券相場がターニングポイントを迎えた可能性

久保田博幸金融アナリスト

ウクライナ東部で乗員乗客295人を乗せたマレーシア航空機のボーイング777型機が墜落した。原因はまだはっきりしていないが、地対空ミサイルシステムによって撃墜されたのではないかとの見方も出ている。これによりウクライナを巡る緊張はあらたな展開を迎えることとなった。

13日にブラジルのリオデジャネイロでロシアのプーチン大統領はドイツのメルケル首相と会談し、ウクライナ軍と親ロシア派武装組織の停戦を実現する方法や、和平協議の再開などについて意見を交わしたとみられるが、これは白紙に戻されそうである。墜落した航空機の乗客280人のうち少なくとも154人がオランダ人だったとみられ、今後はさらにロシアと欧州の緊張が高まる可能性がある。

さらにイスラエルのネタニヤフ首相がパレスチナ自治区ガザに対する地上作戦を命令し、イスラエル軍は17日夜、パレスチナ自治区ガザへの地上侵攻を開始した。中東情勢もさらに緊張の度を増してきつつある。

これらを受けての金融市場の動向を確認してみると、17日の米国市場ではダウ平均が161ドル安となり、米10年債利回りは2.46%まで低下していた。18日にダウ平均は123ドル高と買い戻されたが、21日には一時125ドル安となったが引けは48ドル安と荒れた展開となっている。米債は18日は2.48%とやや戻り売りに押され、21日は2.47%となっており、結果としてあまり居所は変わっていない。

外為市場の動きを見ても一時、リスクオフの動きにより円高となったが、その後の円は戻り売りに押されており、質への逃避的な動きも一時的なものとなっている。

ここで注意すべきは円債の動きかと思われる。4月以降、小動きながらもじりじりと上昇してきた日本の債券相場であるが、17日のマレーシア航空機の墜落を受けてのリスク回避による債券買いにより、相場そのものに変化が生じてきた可能性が出てきた。

17日の債券市場では、朝方に債券先物が146円09銭まで上昇し、10年債利回りは0.510%、5年債利回りは0.140%まで低下した。20年債利回りは1.350%、30年債利回りも1.610%に低下した。ところがその後、大きく下落した。この大きな下落そのものが注目ポイントとなる。地政学的リスクの行方はまだ不透明ながら、さらに株安や米債高にも関わらずの円債の下落は注意する必要がある。債券先物は出来高が5兆円を超えるなど出来高も伴っての久しぶりに大きな動き、結果として下げ相場となったのである。

債券先物は145円78銭まで下げて大引けは10銭安の145円83銭となり、10年債利回りは0.510%から0.540%に後退し、20年債利回りは1.350%から1.395%に、30年債利回りも1.610%から1.665%に後退した。

この動きから見て債券先物の146円台というよりも、10年債の0.5%がいったん意識され、この水準では戻り売りが入ったとの見方もできる。国債のコスト等を考慮すると0.5%~0.6%あたりがひとつの目安とされ、さらに昨年4月の量的・質的緩和以前につけていた水準も0.5%台となっており、このあたりが節目とされていた。さらに20年債の1.4%割れ、30年債の1.7%割れではいったん利食い売りも入り安い水準と言える。しかし、ここまで相場下落をもたらすものであったであろうか。

18日の債券先物のローソク足(日足)は包み線と呼ばれるものとなった。特に長期上昇後の陰線の包み線は「最後の抱き線」とされる。酒田五法と呼ばれるものの中でも相場の転換点を示す重要なシグナルが出たように見える。

これにより債券相場が天井を付けたと断言はできないが、22日以降の相場動向次第ではその可能性が出てくる。昔の米相場の時代から培われてきたチャートのひとつのパターンが発生した以上、それに着目する必要もある。今年の4月以降の円債の上昇相場が終焉するのか。地政学的リスクの強まりが、円債の新たなターニングポイントを形成し、相場が再び動き出す可能性も出てきた。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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