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フラッシュ・ボーイズとフロントランニング

久保田博幸金融アナリスト

8日現在、アマゾン・キンドルのEconomics のベストセラーのトップが「Flash Boys: A Wall Street Revolt」となっている。私も昨日、ダウンロードし、これからじっくりと読んで見たいが、とにかく興味深い本である。

昨日のこのコラムでもフラッシュ・ボーイズのことを取り上げたが、この本が取引所の取引そのものの変革を促すこともありうる。本の売れ行きが良いということはそれだけ関心が持たれていることは確かである。これにはもちろん、この本に発売により、HFTを手掛ける投資会社「バーチュ・ファイナンス」の上場延期というニュースも、販売増に影響したものと思われる。

著者である米作家のマイケル・ルイス氏は、ブルームバーグ・テレビとのインタビュで、「フロントランニング(仲介業者が顧客の注文の前に自分の注文を先に出す行為)が行われていることは明らかだ」と語ったそうである。ただし、システムの抜け穴を利用して利益を得ているだけだとも指摘していた。

しかし、ここで問題になりそうなのは、どのようにして顧客の注文を事前に把握したのかである。1238日のうち損失が出たのはたった1日の「バーチュ・ファイナンス」に対して、FBIはインサイダー取引の有無について調査に乗り出したと6日の日経新聞は伝えていたが、取引所とHFT業者の関係についても今後は調査の手が入る可能性がある。

フロントランニングが違法であるのかどうかは微妙なところであるが、注文そのものをチェックできてしまうとすれば、インサイダーに関わる取引にもなりかねない。ちなみに、フロントランニングは別にコンピュータを使った取引だけに存在しているものではない。むかし、人同士が取引している際にも存在していた。

株式市場での立会場での取引では、怒号やサインが飛び交っていたが、ここには顧客の注文を取り次ぐ証券会社の社員、その注文を付け合わせる取次業者(実栄証券)の社員がいて、東証の社員がそれを監視していた。顧客の注文を取り次ぐ証券会社の社員のなかには、会社の資金をもとに自己の裁量で売買を行っている社員もおり、これがディーラーと呼ばれていた。このディーラーは自社なり他社なりの大口注文を確認し、その注文より先に売買を執行して利益を得ることも可能であった。このあたり、注文を繋ぐのが新人とかであれば、ベテランのディーラーが横目で確認して先に売買を執行するようなことは容易であったはずである。

しかし、取引がシステム化してしまうと、人が介在してのフロントランニングは難しくなる。そもそも自己売買を行うディーラーという人種そのものが、既にレッドブック入りしており、昔に比べて存在感はなくなっている。そんななかにあり、どうやらシステムの隙をついてのフロントランニングが、ハイ・フリークエンシー・トレーディングを通じて復活していたようである。注目すべきはフロントランニング行為そのものよりも、それが可能となった背景にある。その結果次第では、今後の世界的な金融取引手法に大きな変化が出るとともに、取引所取引にも変化が生じる可能性がある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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