市場との対話に悩むFRBと日銀
量的緩和縮小開始を巡って、FRBは「市場との対話」に悩んでいるようである。中央銀行の市場との対話とは、金融政策の変更などが市場の混乱を招くようなことがないように、それを徐々に織り込ませていくものである。むろん金融政策は日本でいえば日銀金融政策決定会合、米国ではFOMC、ユーロではECB政策委員会、英国ではイングランド銀行のMPCにおいて、投票権を保有する委員の多数決で決定されるものであり、事前に決定事項を表明するようなことはありえない。
しかし、特に金融引き締め方向の決定する際には、引き締めそのものが株安等を招きやすいことから、徐々にその意向を浸透させて、実際の決定時の負のインパクトを最小限に抑えようとする。これは緩和の方向においても使われるようになってきている。緩和時には本来インパクトがあったほうが、より効果が発揮されるが、それでも市場の混乱は極力抑える必要があり、市場参加者が推測をしやすい状況を作っている。
中央銀行の政策変更を市場に織り込ませるにはいくつかの手段が存在する。そのひとつに、あるパターンを作り出して予測させるという手段がある。前回の政策決定会合での総裁や議長の発言で次回の政策変更を示唆する。以前のECBなどがこの手段を使っていた。総裁や議長の講演や会見でその可能性を示唆し、これまでの政策変更のパターンから市場にいつのタイミングで政策変更を行うのかを推測させる。これが今回、バーナンキ議長がとった手段である。また、市場のストラテジストやエコノミストなどの予想を通じて織り込ませることや、マスコミを通じて示唆するなどの手段もありうる。
9月18日のFOMCでテーパリングの開始を決定しなかったのは、それをするつもりがなく市場が勝手に判断したというよりも、それができなかったためと思われる。その後の関係者からはぎりぎりの選択であったとのコメントも聞かれた。予定通りに実施できない何らかの事情があり、先延ばしせざるを得なくなった。これで市場がむしろ混乱し、その結果、FRBと市場の対話に齟齬をきたすようになった。これは修復するのはかなりの時間がかかるものと思われる。今後のFRBの対応については、市場関係者は疑心暗鬼で見ざるを得なくなるためである。
今年4月4日の日銀の異次元緩和も「市場との対話」を軽んじていた面があり、それが翌5日の債券市場の混乱を招くことになった。一部の報道によると、この異次元緩和は黒田総裁をはじめ一部の関係者で極秘プロジェクトのように勧められていたとされる。これは市場でのサプライズを狙っていたこともあろうが、単純に中央銀行が国債を大量に買い入れれば、長期金利は抑えられるどころか、国債市場での流動性を低下させるというマイナス要因が生じ、混乱を招くことになった。事前に市場参加者が異次元緩和を認識していれば、流動性低下への懸念を抑えることも可能であったのではなかろうか。
日銀は慌ててその後、市場との対話の場を作ってはきたが、肝心の金融政策については、FRBに対する以上に市場は疑心暗鬼に陥っている。戦力の逐次投入はしないと日銀は言ってはいるが、これは裏を返せば市場などに配慮しての微調整は行わないことを意味しており、対話をより困難にさせている。日銀は目標を設定したは良いが、それが達成できないとしても次の一手が見えていない。リフレ政策を強化させると、その裏返しに財政ファイナンスとの見方が強まる懸念も生じる。かといって中途半端な手段も取りづらい。今後、いったい日銀は何をするのか、いや、何ができるのか。その予測もできないぐらいに市場との対話が途切れているように思われる。