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FRBの資産買入縮小

久保田博幸金融アナリスト

8月21日に公表された7月30、31日のFOMC議事要旨では、9月の資産買入の縮小の判断を巡って、具体的な手がかりは示されなかった。年内に縮小開始、14年半ばメドに証券新規購入を停止とするバーナンキ議長の方針はほぼ支持された。このうち数人のメンバーが、資産買入縮小の判断を巡り慎重論を唱え、数人のメンバーは近いうちに緩和縮小が適切になると主張した。そして、ほぼすべてのメンバーが証券購入額を縮小するのは、このタイミングでは時期尚早だとの判断で一致していた。

年内に縮小開始とのバーナンキ議長の方針はほぼ支持されたことで、9月か12月の議長会見があるFOMCでの縮小決定の可能性は高く、次のFRB議長の人選が固まり新体制が意識される12月よりも、バーナンキ議長の影響力の残る9月での縮小決定が規定路線と言えよう。もちろんそれには経済指標を含めての外部要因を念入りにチェックした上でのものとなる。

ちなみに7月の米FOMC前にニューヨーク連銀が実施したプライマリーディーラー調査によると、FRBの資産買い入れ縮小は9月に150億ドル(国債100億ドル減、MBS50億ドル減)の規模で始まるとの見方が中心。さらに12月に150億ドル(国債50億ドル減、MBS100億ドル減)との見方となっていた。

「Responses to Survey of Primary Dealers」http://www.newyorkfed.org/markets/survey/2013/July_result.pdf

たとえば米長期金利の上昇は資産買入縮小決定に影響を与えるであろうか。FOMC議事要旨では、金利上昇による影響は限定的との見方が示されていた。量的緩和縮小が非常時からの脱却を意味するのであれば、長期金利が3%台に上昇したとしても、それは2011年7月の水準に戻るだけであり、極端に高いというわけではない。1%台にいたことがむしろ低すぎたとも言える。

それでは資産買入縮小による新興国の通貨や株価の下落による影響をどうみるか。新興国バブルの原因は、百年に一度と言われるような世界的な危機が立て続けに発生したことに対処するための、日米欧の中央銀行による異次元緩和であった。これを意識すれば、ある程度のバブル崩壊の動きはいたしかたない。むしろ、異次元緩和に頼り切ってしまうことのほうがリスクが高くなりかねない。

非常に大きな病気が併発し、それに対処するには直接患部を治癒させることに加え、大量の薬が投与された。特に精神的な苦痛(マーケット)に対しての効果も意識されての投与(もしくは必要なら劇薬投与との意思表示)であったが、それがある程度の効果が発揮され、少なくとも精神的な苦痛はかなり減ってきた。大量投与には当然ながら副作用も意識せねばならず、そこで薬の量を減らそうとしたところ、薬に依存しすぎてきた別の器官が今度は悲鳴を上げてきた格好である。

最高レベルにあった警戒レベルを、一段階引き下げるだけの状況になりつつあることは確かである。ギリシャ、ポルトガル、スペイン、イタリアなどの金利の状況がそれを示している。今回の危機はあくまで欧州の危機であったはずである。一段階下げたとしても警戒レベルは引き続き高い位置にある。非常時の対応を続けば続けるほど、その副作用が大きくなる。新興国のバブル崩壊の影響をなるべく抑えるためにも、それはむしろタイミングを遅らせないほうが良いと思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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