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日本の長期金利は0.8%台での膠着感強める

久保田博幸金融アナリスト

日本の長期金利は4月4日の日銀の異次元緩和を受けて翌日の5日に0.315%まで低下した。ところがこの日に0.620%まで上昇し、5月13日に0.8%台、15日に0.9%台に乗せてきた。5月22日にバーナンキFRB議長は、景気指標の改善が続けば債券購入のペースを減速させる可能性があると指摘し、米国の長期金利は2%台に乗せてきた。これを受けて23日に日本の長期金利は1.0%に上昇した。日経平均は16000円に接近し、ドル円は103円台をつけたが、長期金利含めて株もドル円もこの日がピークとなった。

長期金利はその後もやや不安定となるものの1%は超えることなく、6月に入ると12日に0.900%まで上昇し、翌日13日に0.795%まで低下したが、6月中はほぼ0.8%台での推移が続くことになった。この間の東京株式市場もやはり方向感に乏しい動きとなっており、日経平均は13000円台を挟んでの動きが続いていた。

日経平均の13000円は甘利明経済再生担当相が2月の講演で、1万3000円を目指して頑張る気概を示すことが大事だ、と述べたことで甘利ラインと呼ばれている。この水準を抜けた際に「甘利越え」との表現もされていた。結果からみると、どうやらこの甘利ライン大きな節目のラインであったことは確かなのかもしれない。

これに対して長期金利の0.8%台は特に意識されていたような水準ではなく、結果としてここで落ち着いてしまっている。日本の長期金利は米国の長期金利の動向に影響を受けやすいが、今回は違っていた。6月19日の会見でバーナンキFRB議長は年内に緩和策の縮小に踏み切る可能性を示した。これを受けて米長期金利は大きく上昇し、24日には一時2.66%近辺をつけ、ドイツの長期金利も一時1.85%に、英国の長期金利も2.59%近辺まで上昇した。日本の長期金利もあらためて1%台に乗せるだろうと予想されたが、0.890%までの上昇に止まっていたのである。

この日本の長期金利の安定の要因は何なのか。需給面でみれば日銀の異次元緩和による影響が考えられる。超長期債の流動性低下への懸念もあったが、とにかく大量に発行される国債の巨大な買い手が存在していることは確かである。FRBが量的緩和を縮小することで、米国債への影響はあろうが、需給面で日本国債に影響が出ることも考えづらい。投資家によっては米国債の急落で、日本国債も売らざる得ない場面もあるかもしれないが、それで日本国債の需給に大きく影響することも考えにくい。

28日に発表された5月の全国コアCPIが前年同月比0.0%と7か月ぶりにマイナス圏を脱した。今後も円安に伴う輸入価格の上昇などを背景に緩やかな上昇が見込まれている。ただし、それでも日銀の2%のコアCPIが2年以内に達せられとの見方はまだ少ない。早期のデフレ脱却については、かなり難しいとの見方も長期金利の上昇抑制要因となっているのであろうか。

長期金利がこのあたりで安定していれば、日銀にとってもひと安心となろう。米長期金利の上昇に日本の長期金利がついていかなかったのは、日銀の異次元緩和の効果が発揮されているとの解釈もできる。

ただし、いつまでも長期金利や日経平均が安定しているわけではない。7月に入ると新たな動きを見せてくることも予想される。7月1日発表の日銀短観では、設備投資計画を含めて大きく改善されることが予想されている。FRBによる出口政策への懸念による市場の動揺が収まれば、日経平均はあらためて甘利ラインから上昇基調となることも予想される。そうなれば、さすがに長期金利はある程度上昇してもおかしくはない。それでも国債を売る国内の投資家がいるのか、となると売り手も限られる。今後も日本の長期金利、つまり日本国債の動向に大きな影響を与えるような材料が出ない限り、多少動きはあったとしても限られたものとなり、当面の日本の長期金利は1%以内で安定し続けるのであろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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