FRBは出口に向かい、残された日銀の運命とは
6月19日のFOMC後の記者会見で、バーナンキFRB議長は年内に緩和策の縮小に踏み切る可能性を示した。雇用などの経済情勢が見通しどおりに改善すれば、今年後半に緩和策を縮小するのが適当と見ていると述べ、一定のペースで規模を縮小し、失業率が7%程度に下がっていくことを目安に、来年半ばにかけて緩和策を終了するという見通しを示した。
FRBの量的緩和策は非伝統的手段による非常時の対応であった。欧州の信用リスクを中心とした世界経済・金融のリスクの後退により、出口に向けた経路を打ち出したことになる。いわゆる時間を稼ぐ政策への必要性が後退してきたと言える。
FRBによる大量の資金供給が絞られることにより新興国市場などへの影響も懸念されるが、バブルが形成されてはじかれるより、一時的にショックは起きても、経済環境の好転の方が意識され、これは世界経済にとってもマイナスというよりもプラスの影響をもたらすものと考える。もちろんその縮小に向けての条件が整うことがなければ、緩和策の終了が先送りされることも考えられるため、このあたりはかなり慎重に進めることも予想される。
FRBが量的緩和政策を止めるとなれば、それを行っている主な中央銀行は日銀だけとなる。ECBは2012年9月に市場から国債を買い取る新たな対策を決定した。対象となるイタリア、スペイン、ポルトガルなどの国債の無制限買入ではあったが、ECBの購入には厳しい経済的条件が課され、期間も1~3年となるなど、現実にはかなりの制約もあり、実際にはこれによる買入は実施されず、ユーロ圏の信用不安の後退により実施される可能性は極めて薄くなっている。イングランド銀行も新たな国債の買入は行っていない。こちらも三度目の量的緩和が打ち出される可能性はゼロではないが可能性は低下しつつあるのではなかろうか。
FRBが国債を含めた債券の買入を停止するとなれば、それを行っている日米欧の中央銀行は日銀だけとなる。日銀は2%という物価目標を設定しまっている関係上、目標が達せられるまで国債買入を止めるわけには行かない。
この日銀の異次元緩和についてバーナンキ議長は19日の会見で次のようにコメントしている。
「デフレ期待を壊し、物価上昇率を日銀が目標と設定した2%に上げるため、日銀は非常に積極的な政策を実施している。積極的な政策の初期段階では、投資家は日銀の政策による反応を学んでいる状態で市場が不安定になるのは驚くべきことではない。また、日本国債市場は米国債市場などよりも流動性が小さい。全体を考えると、日本がデフレに取り組むのは重要であり、デフレの解消とともに思い切った金融政策や財政出動、構造改革を進める『3本の矢』には賛成だ。たとえ日銀の政策が米経済にいくらかの影響を及ぼしたとしても、日銀の黒田総裁や日本の取り組みを私は支持する」(日経新聞の記事より引用)
FRBの量的緩和はその目的がいつの間にかデュアルマンデートに置き換えられて雇用の回復等になっているが、元々の理由はリーマン・ショックや欧州の信用不安による世界的な経済や金融危機に対処するもの、時間を買う政策であったはずである。ECBやイングランド銀行の国債買入もしかり。日銀も基金による国債買入等を行ってきたのも同様である。ところが、アベノミクスの登場により、それが2%の物価目標への政策に置き換えられて、日銀は引くに引けない状況に自ら追い込んでしまった。バーナンキ議長はFRB議長としては、非常時の対応から脱する道を選んでおきながら、日本に対しては昔のバーナンキ教授時代のごとく黒田日銀の異次元緩和を支持している。自らの理論に対して、実験的な意味合い含めて日銀の動向を見つめているようにも見受けられる。それではその壮大な実験がうまく行かなかったら、どうするのであろうか。むろんバーナンキ氏がその責任を負うことはない。自らは早めに危険なところからは脱して、取り残した日銀の行方を興味深く観察していくつもりではなかろうか。