日銀の政権交代
2013年3月20日、日銀では政権交代が行われた。もちろんこれは選挙によるものではなかったが、いわゆる日銀理論をベースとした政策から金融政策のレジーム・チェンジ(体制転換)が行われ、いわゆるリフレ政策をベースにした政策に転じることになった。
長きに渡る政権がひっくり返されたといえば、2009年8月30日の第45回衆議院議員総選挙における民主党の政権奪取が連想される。民主党は単独で総議席の3分の2に迫る308議席獲得と圧勝し、鳩山内閣は当初70%を超す高い支持率を得てスタートした。
参考までに安倍内閣の支持率は、読売新聞社によると4月12~14日調査分で74%、前回3月15~17日の72%をこえるなど高い支持率を示していた。アベノミクス効果による円安・株高等がかなり意識されていると思われる。安倍内閣の支持率は昨年12月の内閣発足直後から毎月上がっており、4回連続の上昇は、毎月調査を始めた1978年以降で初めてだそうである。安倍内閣が日銀との連携を強化して、成長を重視した経済政策を進めていることを評価する人67%に上り、日銀が決めた大規模な金融緩和策を「評価する」は54%と「評価しない」の30%より多かったそうである(読売新聞)。
この調査結果を見ると、どうやに日銀の政権交代による期待については、評価しているむきは多いものの、54%という数字は「いや、ちょっと待てよ」とみている人もそれなりに多いことを示しているように思われる。
アベノミクスは三本の矢というが、一本目の次元の違う大胆な金融緩和という期待に負うところが大きい。リフレ政策を全面に打ち出して、円安・株高を加速させ、それが支持率アップにも繋がっているのは確かであろう。今後の安倍政権の支持率の行方は、実は日銀の政策とその効果にかかっているという見方もできよう。
そうであれば、日銀の政権交代によるレジーム・チェンジの効果を見定める必要がある。それには今回の自民党が政権を取り返した事例よりも、2009年の民主党が政権を握った際のレジーム・チェンジの際の状況が参考になるのではなかろうか。
黒田日銀のマニフェストに掲げた大きな目標は2%の物価目標を2年で達成するというものである。しかし、これは日銀理論をベースとした政策から見ると、非常に達成が難しいものとなる。そのために打ち出した政策はこれまでの路線上にあるものながら、量を極端に大きく見せるものとなった。これでどのようにして目標達成を可能とするのか、その具体的な道筋は示されていない。さらに債券市場を混乱させるなどの副作用も出ており、日銀はまずそのための火消しに走ることになった。
民主党が政権を握った際には、官僚との関係がかなりぎくしゃくしたと言われる。同様の事態が今回の日銀内部で発生する可能性もある。それでもアベノミクスへの期待感が維持している間は良いかもしれないが、物価目標達成に向けて今後はいろいろと問題が表面化することも想定される。今後CPIは回復すると予想されているが、足下CPIは3月の全国で前年比マイナス0.5%にいる。アベノミクス登場が昨年11月だとすれば、すでに半年経過しているが、期待感が物価に働きかけている様子は見えていないのが実情である。
そもそも物価さえ上げれば何とかなる的な発想に問題はないのか。物価上昇への道筋含めて、日銀にはその説明が求められる。そこで適切な答えが出なければ、期待が失望に変わる可能性もある。円安・株高は海外要因に助けられているというか、海外要因が根底にある。世界的なリスクの後退とそれによる景気回復への期待である。そこに日米欧の中央銀行の超緩和策が後押ししている。
海外要因による円安や世界的に株高にブレーキが掛かると、アベノミクスへの成果が問われる。その際に注目されるのは、日銀の金融政策となろう。政権交代により、ルビコン川を渡り、パンドラの箱を開けてしまった日銀が、今後はどのような政策をとるのか。果たしてレジーム・チェンジした金融政策への支持はどこまで続くのか。非常に興味深い。