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日銀の国債買入方式の修正

久保田博幸金融アナリスト

日銀は4日に決定した量的・質的金融緩和策(QQE)における国債の新たな買入について、市場参加者の意見を取り入れ、買入方式を一部修正し18日の夕方に発表された。

量的・質的金融緩和策では、長期国債の保有残高が年間約50兆円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。毎月の長期国債のグロスの買入れ額は7兆円強となる(国債には償還があるため、その分も考慮しての買入額)。これにより日銀が保有する長期国債(残存1年以上の国債)は2012年末が89兆円となっていたが、それが2013年末に140兆円、2014年末に190兆円まで引き上げられる。

長期国債の買入対象を40年債を含む全ゾーンとし、買入の平均残存年数を現状の3年弱から国債発行残高の平均並みの7年程度に延長する。この結果、毎月の長期国債のグロスの買入額は7.5兆円規模(これまでは3.8兆円程度、4月の買入予定額は6.2兆円)になる。2013年度の長期国債のカレンダーベースの発行予定額は126.6兆円となっており(年間発行額156.6兆円から短国の30兆円を差し引いたもの)、7.5兆円の12か月で88.7兆円をグロスで日銀が購入するとなれば、毎月の発行額の70%を買い入れることになる。

この具体的な買入方式については、金融政策決定会合の公表文には書かれておらず、決定会合後の夕方に、「当面の長期国債買入れの運営について」が日銀金融市場局から発表された。まさに突貫工事で作成したとの印象である。

4日の夕方にはエコノミストなどが日銀に集められたが、ここでは新政策への説明が中心となり、集まった市場参加者もこれにより具体的に市場にどのような影響があるのか、はかりあぐねていたのではなかろうか。その影響は翌5日に現れ、債券市場は史上まれにみる乱高下となったが、日銀が発行額の7割も買い入れることによる国債市場の機能低下への懸念が大きな要因となった。このあたりについて日銀も2009年のイングランド銀行による量的緩和時の英国債市場の混乱などから、ある程度の想定はあったのかもしれないが、あまり準備が進んでいたわけでもなさそうであった。

11日にはあらためて市場参加者との対話の強化を図ることを目的に、「市場参加者との意見交換会」が開催された。しかし、参加予定者は金融調節取引対象先、機関投資家など市場参加者ではあったものの、初回ということもあってか役員クラスが集められた。5日以降の債券市場の混乱ぶりを見る限り、早めに実務者レベルでの会合をもつべきであったとは思うが、それが開催されたのは17日となった。

4月17日に「市場調節取引実務担当者との意見交換会」が開催されたが、ここでは1回当たり1兆円程度で4月に5回、5月に6回実施する予定となっていた国債買入について、市場への影響が大きいため、出席者からは、金額を小さくして高い頻度にした方が良いとの意見が多かった(ブルームバーグ)。これを踏まえて18日に日銀はあらためて「当面の長期国債買入れの運営について」を発表したのである。

ここでは4月と5月分について発表されたが、このうち5月分を見てみると、修正前は6回で合計7兆4400億円予定の国債買入であったものを、修正後は16回で7兆5000億円程度となった。修正後は原則として2つの残存期間区分を同時にオファーすることになり、つまり16回の半分の8回、オペが入ることになる。

金額についても修正前に比べてそれぞれの年限に幅を持たせ、相場状況等に合わせて裁量の余地を持たせた格好となっている。たとえば残存期間1年超5年以下は修正前の5月合計3兆円が3~3.5兆円に。残存期間5年超10年以下も修正前の3.4兆円が3~3.5兆円に。残存期間10年超、つまり超長期債は当初の8000億円が、8000億円~1兆2000億円に何げに上方修正されていた。

残存期間1年超5年以下については、残存期間の区分を細分化して同時にオファーすることがあるとしており、これは2年債あたりに集中する可能性を配慮したようである。

買入対象銘柄の残存期間が重複する利付国債の入札日(流動性供給入札を含む)には、原則オファーしないことも明記された。これはつまりカレント物の流動性に多少なり配慮するとともに、「財政ファイナンス」と受け止められることを防ぐ狙いがあるそうである(19日の日経新聞)。あまりしっかりとした歯止めのようには思われないが。

日銀は大胆な緩和策を講じ、それによる国債市場の混乱を目の当たりにし、次々と手を打ち、債券市場もやや落ち着きを取り戻してきた。そんなところに、今回の国債買入方式の修正発表も市場は好感した格好となった。しかし、池のなかのクジラはクジラである。債券市場の混乱がこれで完全に払拭されるとも思えない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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