物価上昇率が高まるメカニズム
政府による日銀の正副総裁の人事では、これまでインフレ目標を主張していた黒田東彦氏が総裁に、そしてリフレ派の筆頭ともいえる岩田規久男氏が副総裁とする案が固まったそうである。これからいよいよ本格域なリフレ派によめ物価上昇のための金融政策が試されることになりそうだが。ここではいわばアンチリフレ派ともいえる立場からの物価上昇に対するメカニズムについて、2月20日の日銀の森本審議委員の講演を元に考えて見たい。
「景気が改善するもとで経済全体の需要が供給能力との対比で増加し、マクロ的な需給バランスが改善すれば、数四半期程度のタイムラグを伴いながら、消費者物価の上昇につながっていきます。」
森本委員は前提が物価の上昇ではなく、景気回復の結果として物価の上昇が起きるとしている。
「世界に先駆けての急速な少子高齢化やグローバル化など日本経済を取り巻く環境は大きく変化しましたが、これに対する経済構造の適応が遅れた結果、経済成長率が趨勢的に縮小し、人々が成長期待を持てなくなってきていることが、慢性的な需要不足の一因となっています。」
この経済構造の適応の遅れとかは、果たして日銀の金融緩和が足りなかったからなのであろうか。
「慢性的な需要不足が生じるもとで、多くの企業では、賃金の抑制等のコスト削減の取り組みが行われました。しかし、自社の製商品に強気の価格設定を行うことができない熾烈な価格競争の中で、こうしたコストの削減が採算の改善につながりにくい状況が続きました」
コストの削減には賃金の抑制も含まれるが、これにより終身雇用・年功序列という日本の雇用体系が維持できなくなり、賃金の上昇にも期待が持てなくなったことも、デフレと呼ばれる状況が大きな要因であったはずである。
「こうした状況を打破するためには、成長力を強化し、企業や家計の中長期的な成長期待を高め、慢性的な需要不足を解消することが必要となります。」
「成長力を強化していくうえでは、その前提となる就業者数の確保と就業者一人一人が生み出す付加価値(付加価値生産性)の向上が必要です」
日銀の金融緩和だけでこのような政策が可能だとは到底思えない。大胆な金融政策で気合いを入れるのは良いが、その副作用も考える必要があるとともに、金融緩和だけでは、慢性的な需要不足を解消することは難しいことも確かである。生産性の向上も金融緩和だけで行えるのであろうか。
「資産買入等により、長めの市場金利の低下と各種リスク・プレミアムの縮小を促し、企業や家計が十分な低利で調達できる金融環境を実現することを狙いとしています。」
すでに短期金利はゼロ近辺、長期金利も0.7%台と歴史的な低金利にある。企業も家計も十分に低利で資金は調達できている。ここから基金で日銀が国債を大量に買っても、長期金利の引き下げ余地は0.7%しかない。それでどれだけの効果があるというのであろうか。このあたりの説明はなく、森本委員は基金による国債残高が膨らんだ数値を示しただけであった。これは森本委員の説明不足とかではない。そもそも日銀の金融緩和では、低利で資金調達ができる環境を作るだけであり、限界があることを示していると思われる。このようなアンチリフレ派の意見に対して、リフレ派が今度は金融政策の現場で自らの主張を試すこととなる。