白川日銀総裁と松下元総裁の奇妙な類似点

日銀の白川総裁は4月8日の任期満了を待たずに3月19日に辞任すると発表した。総裁として議長として望む金融政策決定会合は、3月6日、7日が最後となる。

白川氏が総裁となったのは、2008年4月9日。この年の9月にリーマン・ショックが起きる。10月には日銀、無担保コール翌日物金利の誘導目標値を0.5%から0.3%に引き下げ、11月には補完当座預金制度に基づく付利を開始、12月に無担保コール翌日物金利の誘導目標値を0.3%から0.1%に引き下げ、長期国債買い入れオペを毎月1.2兆円から1.4兆円に増額した。

2009年3月に長期国債の買い入れを月1.4兆円から1.8兆に増額、12月には臨時の金融政策決定会合を開き、追加の金融緩和策を決定。10兆円規模の新型オペを導入した。

2010年にはギリシャ・ショックが世界を襲う。3月に固定金利オペを大幅に増額。8月に臨時の金融政策決定会合を開催し新型オペの拡充策と新たに貸出期間6か月の新型オペ10兆円を新設。そして10月には、質的なゼロ金利政策を再開、時間軸政策、基金オペの実施という包括緩和策を導入した。

2011年3月は東日本大震災が発生し、日銀は資産買い入れ基金を総額40兆円に増額した。8月には基金の総額を50兆円に、また固定金利オペを5兆円から10兆円に拡大した。10月には資産買入れ等の基金を55兆円程度に拡大。

2012年2月に物価安定の目途(コアCPIの1%)を示し、資産買入等の基金規模を65兆円程度に増額。4月には資産買入等の基金を70兆円に増額し、買入対象となる長期国債の残存期間も1年以上3年以下に延長した。9月には資産買入等の基金を80兆円程度に増額。10月に資産買入等基金の規模を91円程度に増額、貸出支援基金を設立、政府と日銀の共同文書を公表した。12月には資産買入等の基金を101兆円程度に増額したのである。

2013年1月には日銀は政府からの要請のあった「物価安定の目標」を導入することを決定し、同時にあらたな追加緩和策として、「期限を定めない資産買入方式」を導入することを決めた。

このように白川総裁の任期中、日銀は追加緩和か現状維持だけとなり、金融引き締めは一度も行わなかった。これに対して前任の福井総裁は量的緩和解除、ゼロ金利解除と利上げも行っている。その前の速水総裁も2000年8月にゼロ金利解除を行っている。

一度も金融引き締めを行わなかった総裁には、やはり任期満了を待たずに辞任した松下総裁もいる。どうもこの松下総裁と白川総裁には、任期満了前の辞任や引き締めをしなかったことだけでなく、任期中に大きな震災も起きるなど、偶然ではあろうが似たところがあった。

松下康雄氏が日銀総裁に就任したのは1994年12月17日であった。1995年1月に阪神・淡路大震災が発生している。この年の2月にベアリングズ社が経営破綻した。4月に公定歩合を0.75%引下げ1.00%に。8月にはコスモ信用組合破綻・木津信用組合の一部業務停止命令・兵庫銀行破綻があり、9月に公定歩合を0.5%に引下げた。1998年には海道拓殖銀行、山一證券、徳陽シティ銀行の経営破綻に対処するため特融措置を決定している。

松下総裁の任期中は主に国内での金融危機が発生し、白川総裁の任期中には欧米での金融危機が発生したことで、結果として金融緩和策が続けられてきた。阪神・淡路大震災と東日本大震災という大きな災害も発生し、金融インフラの維持という大きな仕事も行ってきた。

松下総裁も白川総裁も、あまり目立たなかった総裁であったかもしれない。それぞれ批判もあろうが、日銀総裁として大きな危機の中、しっかりと仕事をやり遂げてきたことは確かではなかろうか。いや緩和が足りないとか、デフレから脱却できていないとの指摘もあるかもしれないが、果たしてそうであろうか。このあたりの評価はもう少し時が経ってからの方が良いような気がする。G20では議長国ロシアのシルアノフ財務相から白川方明日銀総裁の3月退任が紹介された際、各国の出席者はこれまでの白川氏の貢献を満場の拍手でたたえ、次々に握手を求めたそうである(時事通信)。

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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