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大阪の市民団体が「カジノ阻止」を掲げ東京・永田町に200人集結。夜は銀座デモ

幸田泉ジャーナリスト、作家
大阪と長崎のIR誘致計画の撤回を求めて永田町に集まった市民=筆者撮影

 今春、大阪でカジノ誘致の賛否を問う住民投票の実施を知事に求める直接請求署名運動を行った「カジノの是非は府民が決める 住民投票をもとめる会」(山川義保・事務局長)が、9月30日、上京して「カジノは日本のどこにもいらない! 東京大行動」を展開した。大阪府とともにIR(カジノを含む統合型リゾート)の整備計画を国に申請している長崎県、カジノ阻止に住民が奮起した横浜市と和歌山市からも賛同者が駆け付け、永田町には約200人が集結。IR計画の審査、認可を担当する国土交通省への請願、院内集会などを行い、夜は日比谷公園から銀座をデモして「日本にカジノはいらない」とアピールした。

約20万筆の署名パワーで上京

 45年ぶりに府内全域を対象に行われた大阪の直接請求署名運動は、3月25日~5月25日の2カ月間で法定数(有権者の50分の1)を大きく超える約20万筆の署名を集めた。吉村洋文・府知事に「カジノの賛否を問う住民投票実施の条例制定」を直接請求したが、吉村知事は「住民投票は必要ない」との見解で、7月29日の大阪府議会はわずか半日の審議で条例案を否決した。大阪府は4月にIRの「区域整備計画」を国に申請しており、国土交通省所管の審査委員会が審査中。「住民投票をもとめる会」では、「知事も府議会も住民の声を聴こうとしない。国に区域整備計画を認可しないよう訴えよう」と集団上京を決めた。

 「東京大行動」の9月30日は、永田町の衆議院第2会館前でのアピールから始まった。「住民投票をもとめる会」の共同代表、西澤信善・神戸大学名誉教授は、大阪IRが来場者も売り上げも8割はカジノによるものであることから「IRと看板を掲げているが、内容はカジノ型IR。こんな計画は承認してはならない。今日は国と国会議員に思いをぶつけたい」と述べた。山川事務局長は「大阪ではカジノの誘致場所の整備に大阪市が多額の公金を使う。地元住民が合意していないカジノ計画が勝手に決められていくのは我慢ならない」と訴えた。

長崎県は資金計画を明らかにせず

「東京大行動」の参加者で埋まった参議院議員会館の大会議室=2022年9月30日、筆者撮影
「東京大行動」の参加者で埋まった参議院議員会館の大会議室=2022年9月30日、筆者撮影

 アピールの後は、衆議院第2議員会館前で「座り込み」をする人、国会議員らへ要請をする人、三菱UFJ銀行と三井住友銀行に「大阪カジノへの融資を止めて」と申し入れをする人に分かれて行動。午後2時半からは、参議院議員会館の会議室で国土交通省への請願と意見交換の場がもたれた。「住民投票をもとめる会」は、大阪IRが建設される人工島「夢洲」は、軟弱地盤なうえに埋め立て材の浚渫土砂による土壌汚染があること、南海トラフ地震の被害想定が不可欠であることなど、大阪湾に浮かぶ埋め立て地特有の重大な問題があると述べた。大阪IRの区域整備計画では年間約2000万人が来場することになっており、平均して1日5万人もの観光客が夢洲に集まるのは災害上のリスクが大きい。国土交通省観光庁の佐藤克文参事官は、地震の際の避難計画が必要なことは「認識している」と回答した。

 続く、院内集会、記者会見では、長崎県の参加者からも訴えがあった。長崎県は佐世保市のテーマパーク「ハウステンボス」にIRを建設する予定だ。「ストップ・カジノ長崎県ネットワーク」の鶴留和彦幹事は、「長崎県は資金調達計画を明らかにせず、どんな企業がいくら出資するのかさっぱり分からない。不透明な区域整備計画を県議会は45人中42人が賛成して通してしまった」と憤る。ハウステンボス周辺の住民は治安の悪化などを心配しており、鶴留さんは「区域整備計画が年間600万人ものIR来場者を当て込んでいるのも信憑性がないし、カジノ目的にどっと来てもらっても困る」と話した。

 静岡大学の鳥畑与一教授は市民団体の「東京大行動」に学者の立場から参加。カジノに対しては未だに「海外の観光客が大金を落としてくれる」と歓迎する向きがあることに、「中国人富裕層を期待しているのだろうが、中国は国民のカジノ観光に規制を強めているのでもう期待できない。今さらカジノで日本の国際競争力が高まるなんてあり得ない」と批判。さらに「IRはカジノがなくてもMICE施設の売り上げなどで黒字経営できるが、カジノを作るのは投資家に高い利回りを提供するため」と述べ、客の財布から投資家たちに金を移動させる仕組みとしてカジノが存在していることを指摘した。

東京でつながった地方ネットワーク

「カジノあかん」「カジノいらんばい」とネオン街に声を響かせた銀座デモ=2022年9月30日、筆者撮影
「カジノあかん」「カジノいらんばい」とネオン街に声を響かせた銀座デモ=2022年9月30日、筆者撮影

 「住民投票をもとめる会」の共同代表、大垣さなゑさんは、参議院議員会館の大会議室を埋めた人々に「これほどの人が東京まで直訴に来た。今日、初めて顔を合わせた人も多いはず。人と人が会うことが人の持つ力を高めていく。大きなエネルギーになる集会だった」と述べた。

 夜は日比谷公園から出発して銀座をデモ。「東京都民のみなさん、カジノに街がつぶされてはならないと、大阪、長崎、和歌山、横浜から集まりました」「カジノあかん」「カジノいらんばい」。ネオン街に声を響かせた。

 昨年の横浜市長選でカジノ反対の山中竹春市長誕生に尽力した「ストップカジノ横浜市長選アクション」(2021年9月解散)の共同代表、青島まさはるさんは「横浜も決してすんなりことが運んだわけじゃない。思いは同じ団体、政党の間でも、選挙で一つにまとまるまでは山あり谷ありだった」と振り返る。大阪は来春、統一地方選とともに、大阪府知事、大阪市長のダブル選挙が行われる。青島さんは「大阪も市民の力でカジノ反対の首長を立てようとしたら、様々な壁にぶつかるはず。乗り越えるために横浜の経験が生かせるなら協力したい」と話した。

 「住民投票をもとめる会」は今月、カジノ誘致計画の撤回に向けもっと社会的影響力のある運動を展開するため改組を予定している。

ジャーナリスト、作家

大阪府出身。立命館大学理工学部卒。元全国紙記者。2014年からフリーランス。2015年、新聞販売現場の暗部を暴いたノンフィクションノベル「小説 新聞社販売局」(講談社)を上梓。現在は大阪市在住で、大阪の公共政策に関する問題を発信中。大阪市立の高校22校を大阪府に無償譲渡するのに差し止めを求めた住民訴訟の原告で、2022年5月、経緯をまとめた「大阪市の教育と財産を守れ!」(ISN出版)を出版。

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