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何が何でも大阪都構想にしがみつく理屈の通らない人々

幸田泉ジャーナリスト、作家
大阪都構想の法定協議会で会長提案に賛同する松井知事、吉村市長と維新議員=筆者撮影

 大阪都構想の制度設計について話し合う「大都市制度(特別区設置)協議会」(通称、法定協議会)が3月7日、大阪市役所で開かれた。今年度最後となる法定協議会は、松井一郎・府知事ら「大阪維新の会」と公明党議員らの「言い合い」で終了。大阪都構想の議論は統一地方選をまたいで年度越えすることになった。松井知事らは、年度内に大阪都構想の設計図「特別区設置協定書」を法定協議会で仕上げるべく、昨年末から公明党に協力を迫っていたが、公明党は「大阪都構想は大阪市を廃止して特別区に分割するという市民生活に多大な影響のある自治体再編なのに議論が尽くされていない」との見解を貫き、協力要請に応じなかった。

 法定協議会の最後に今井豊会長(維新府議)は、「会長案」として「今後のスケジュール」と題する工程表を記載した資料を配布。統一地方選終了後の5月末に法定協議会を再開し、8月ごろに特別区設置協定書を仕上げ、11月の府知事、大阪市長のダブル選挙の投開票日と同日で住民投票を実施する、という工程を提案した。

 今井会長が「このスケジュールでご異議ございませんか」と問うと、会議場からは「異議あり」の声。採決することとなり、今井会長提案の工程表に賛同して松井知事、吉村洋文・大阪市長と維新議員の9人だけが起立。過半数に達せず否決された。

大阪都構想の法定協議会は法的に正しい運営なのか

 松井知事と吉村市長は今年11月~12月の任期満了を待たずに辞職して、統一地方選に合わせ「出直し選挙」に打って出るという選挙作戦で、公明党に「それが嫌なら協力せよ」と迫ってきた。次の案が法定協議会で今井会長が提案した「11月の知事、市長のダブル選挙と同時に大阪都構想の住民投票を実施する」だったが、これも否決されたので、維新の作戦は元に戻って統一地方選と知事、市長の前倒しダブル選挙の同日実施となる。

 松井知事は「公明党に裏切られた。死んでも死に切れない」などと怒り狂っているが、今までに大阪都構想に関して公明党が維新に協力したのは背景に衆院選挙を巡る駆け引きがある場合だけであって、近々、衆院選挙がなければ、維新に渋々協力する必要はない。こうなることは十分、予想されたはずだ。

 これまで法定協議会では、野党会派の議員から大阪都構想の問題点を指摘する意見が噴出し、大阪都構想が実現に向けて進んでいるとは言い難い。紛糾する中、松井知事、吉村市長をはじめ、維新議員らは「法定協議会は大阪都構想の設計図である『特別区設置協定書』を作成する場であり、大阪都構想への反対意見を述べるのは協議会規約に反する」と野党議員らの意見に耳を貸さなかった。

 確かに法定協議会の規約には、この協議会が行う事務は「特別区設置協定書を作成すること」「特別区の設置に関し必要な協議を行うこと」と記載されている。では、法定協議会を設置した以上、大阪市を廃止して特別区に分割する道しか残されていないのだろうか?

 法定協議会をずっと傍聴している木村收・元大阪市立大教授(地方財政論)は、「大阪都構想の法定協議会は『大阪市の廃止、分割ありき』であって、大阪市の存続を求める意見を認めないというのは全くおかしな話だ」と指摘する。「大阪都構想の法定協議会は、市町村が合併を検討する際に集まって設置する合併協議会がモデル。平成の大合併では関係市町村の利害が一致して合併した自治体もあれば、条件が折り合わず合併しなかったケースもたくさんある。大阪都構想の協議会でも、大阪市の廃止、分割によるメリットとデメリット、賛成、反対双方の議論をするのは当然のこと」とし、「市町村合併が『足し算』だとすれば、大阪市を廃止して特別区に分割する大阪都構想は次元の違う『割り算』だ。大阪市の廃止は、自治体の合併よりももっと慎重になるべき前例のない自治体再編、軽々に扱われては困る」と話す。

大阪市議会で明らかになった法定協議会の矛盾

 複数の地方自治体が協力して業務を進める手段として、地方自治法252条の2の2で「協議会」の設置が認められており、市町村合併を協議する合併協議会も、大阪都構想の法定協議会もこの規定に基づいて設置されている。市町村合併の手続きは「市町村の合併の特例に関する法律」(市町村合併特例法)に従い、大阪都構想は「大都市地域における特別区の設置に関する法律」(大都市法)に従って進められるが、そのもとになっているのはどちらも地方自治法である。

 2月25日、大阪市議会の大都市・税財政制度特別委員会で共産党会派の瀬戸一正議員は、合併協議会と大阪都構想の法定協議会を比較する形で、大阪で行われている大阪都構想協議の重大な過ちを問いただした。

 「合併協議会の設置は市町村合併特例法の第3条に基づいているが、この法律の解説にはどう書かれてあるのか」との瀬戸議員の質問に対し、大阪都構想の事務局である副首都推進局の幹部職員はこう答弁した。

 「市町村合併特例法の逐条解説等によると、合併協議会の設置イコール合併を行うこととはならない、合併協議会とは合併を行うこと自体の是非も含めて協議する組織である、と解説されております」

 市町村合併特例法の逐条解説には「協議会の設置イコール合併を行うこととはならない」とはっきり書いてあるというのだ。では、同様の法的な組み立てで設置されている大阪都構想の法定協議会も、「大阪市を廃止するか、存続させるか」という根本から話し合う役割を法的に負っているということになり、松井知事ら維新側が言う「法定協議会が設置された以上は、大阪都構想を前に進める意見しか言ってはいけない」というのは法定協議会の役割を理解していない主張である。

 瀬戸議員は3月6日の大阪市議会、財政総務委員会で再び、この点について吉村市長に質問した。

 吉村市長は「法定協議会は、特別区設置協定書の取りまとめを目的としている。瀬戸議員は(大阪市を廃止する)特別区設置に大反対だから、協定書をまとめなくてもいいというのは政治的主張だ」と突っぱね、瀬戸議員は「あなた弁護士ですよね? 法律家としておかしいんじゃないですか」とあきれ顔で言った。

 看板政策の大阪都構想を何が何でも推し進めようとする維新のやり方について、瀬戸議員は「法律よりも個人を上に置くものであり、こんなことがまかり通れば法治国家ではない」と警鐘を鳴らす。

 実は大阪では非常に危険な政治が行われているということを、選挙で有権者はどう判断するのだろうか。

ジャーナリスト、作家

大阪府出身。立命館大学理工学部卒。元全国紙記者。2014年からフリーランス。2015年、新聞販売現場の暗部を暴いたノンフィクションノベル「小説 新聞社販売局」(講談社)を上梓。現在は大阪市在住で、大阪の公共政策に関する問題を発信中。大阪市立の高校22校を大阪府に無償譲渡するのに差し止めを求めた住民訴訟の原告で、2022年5月、経緯をまとめた「大阪市の教育と財産を守れ!」(ISN出版)を出版。

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