Yahoo!ニュース

大阪万博の誘致成功でまた蘇った大阪都構想。万博と大阪都構想は両立できるのか

幸田泉ジャーナリスト、作家
タウンミーティングで大阪都構想について説明する吉村洋文・大阪市長(筆者撮影)

 2025年開催の万博の誘致に成功した大阪。「大阪維新の会」の松井一郎知事と吉村洋文・大阪市長は「府市が一体となって誘致活動に取り組んだ成果」と調子づくが、地元住民にとっては喜んでばかりいられない事態になっている。松井知事と吉村市長らはこの勢いに乗って、維新の看板政策である「大阪都構想」を万博とセットにして前に進めようとしているからだ。

冷めたピザの大阪都構想を万博の熱で温め直す作戦

 政令指定都市の大阪市を廃止して特別区に分割し、大阪市の財源と権限を大幅に大阪府に移譲する「大阪都構想」は、2015年5月、大阪市民対象の住民投票で否決された。松井知事ら維新勢力は「再チャレンジする」として昨年、大阪都構想の設計図を決める法定協議会を再設置し、大阪府市の共同部署「副首都推進局」を事務局として検討、協議を続けているが、肝心の市民の支持は低落。今春のマスコミの世論調査では「大阪都構想に賛成」は3割を切り、当初、松井知事らが今秋に実施を目指していた2度目の住民投票は見送られた。

 すっかり「冷めたピザ」となっていた大阪都構想を、維新は万博の熱で温め直そうとしている。11月24日に万博誘致が決定すると、松井知事と吉村市長は「来年夏(2019年夏)の参院議員選挙と大阪都構想の(2度目の)住民投票を同日実施する」とか「来夏の参院選挙までに住民投票を実施したい。同日も有力な選択肢」などと発言し、新たなスケジュールを示した。

 11月30日の大阪市議会本会議で吉村市長は、万博に関する質疑で「(誘致が成功したのは)府市一体になったのが大きい成果。万博誘致が決まった瞬間、前前市長の平松市長はツイッターでさっそく『万博に反対』とおっしゃっていましたので、平松市長、橋下知事であれば絶対に成功できなかったのが万博であり、その背景にあるのは府市の関係」と答弁した。

 維新の創設者である橋下徹前知事は、2011年に大阪市長に鞍替えし、現職の平松邦夫元市長と選挙戦を戦って勝利。同日選になった府知事選では維新の創設メンバーだった松井知事が当選し、以来、大阪府と大阪市は双方ともに維新首長になった。橋下前市長の後任の吉村市長は「大阪府市が維新体制なので万博誘致に成功した」という根拠として平松元市長のツイッターを引き合いに出したのだ。

 これに対し平松元市長は「吉村市長の言うようなツイッターはしていない。万博の開催地が廃棄物処分場の埋め立て地であることに安全面から疑問を呈したことはあるが、それをもってして、私が市長だったら万博はできなかったと結論付けるのは非常に粗っぽく、万博を政治的に利用しようとする意図が透けて見える」と話す。

 

大阪市議会でも大阪都構想と万博の同時進行に反対意見

 大阪都構想と万博という全く別の施策を関連付けようとする松井、吉村両首長の方針は、「大阪市民が住民自治を失う」と大阪都構想に反対してきた自民党をはじめとする大阪の野党にとっては噴飯ものだ。

 12月13日の大阪市議会の大都市・税財政制度特別委員会で自民党会派の北野妙子議員は「万博の開催が決定した今、そのホストシティたる大阪市を廃止解体する前代未聞の愚行を行えば、大混乱になるのは火を見るより明らか。既に(2015年の)住民投票で決着された特別区制度の議論をしているような時間的、人的余裕は大阪市にはない。一刻も早く法定協議会と副首都推進局を解散して万博推進局に看板変えし、官民一体となって万博の成功に注力すべき」ときっぱり述べた。

 この委員会で吉村市長は「(2008年の)オリンピック招致は大阪市だけが一生懸命で、大阪府は知らんぷりだった。今回の(万博の)ように大阪府市が一つになって組織も一緒になってやっていくことで、大きな力が発揮できた」と強調。共産党の山中智子議員が「オリンピックに大阪府が知らんぷりだったわけではないし、招致できなかったのは北京という強敵がいたことが大きかった。そもそも、オリンピックは都市が主催するもので、万博は国。オリンピックと万博を比較すること自体おかしいし、市長として無責任極まりないミスリード」と釘を刺す一幕もあった。

大阪都構想と万博を結び付ける維新のロジック

 松井知事、吉村市長ら維新が万博の誘致成功について「府市一体となってこそ大きな力が発揮できる」と繰り返しアピールするのは、大阪都構想を見据えてのことだ。これまでにも法定協議会や市議会などで維新会派は「現在は松井知事と吉村市長は政策面で一致しているが、こうした人間関係に頼るのでなく、制度的に府市の方向性を一致させるのが合理的」と大阪都構想について説明していた。大阪市が政令指定都市としての権限を失って大阪府の隷属団体になる大阪都構想を「府市の方向性を一致させて二重行政を無くす制度」というのが維新の主張であり、万博決定後は「府市で協調して万博が誘致できた。この協調を将来的にずっと続けるために大阪都構想を実現させよう」というロジックを展開している。

 12月15日、大阪市内で行われた大阪都構想をテーマにした大阪維新の会のタウンミーティング。吉村市長は「大阪府がやることは大阪市長が嫌うし、大阪市がやることは大阪府知事が嫌う。同じような予算の規模で、同じような役所で、どうしてもぶつかっちゃうんです。ぶつかった結果、非効率なものをそれぞれ勝手にやってしまう。これが残念ながら大阪の歴史です。こんなことをやっていたら、大阪の成長の舵取りはできない。大阪都構想の本質は、大阪を成長させるため、あるいは皆さんの暮らしを良くするために、行政の最適な仕組みって何だろうという問い掛けです」と述べた。

 1時間半の間、大阪都構想の意義を縷々述べる説明が続いたが、そもそもこの自治体再編には巨額の税金を投入しなくてはならないのが問題視されていて、そこに万博というこれまた巨額の税金を投じる事業が決定したというのが現状である。両方を進めるために、大阪府市はどうやってその資金を工面するのかという現実的な「カネ」の話はなかった。

 大阪府も大阪市も東京都のような「金持ち」の自治体ではない。巨額の費用を投じる事業には自治体の財政を悪化させる危険が伴う。大阪万博は賛同の世論が多数なので、仮に来場者が予定を大幅に下回ったり、経済効果が見立て通りいかなかったりして「失敗」となった場合、市民全体で受け止めなくてはならないのは理解できる。しかし、大阪都構想は2015年に住民投票で「NO」と結論を出した施策だ。維新の党利党略で万博に乗じて大阪都構想まで推し進め、行政の大混乱で万博に悪影響を及ぼしたり、万博を成功させられなかったり、大阪府市の財政が困窮することになった時、その責任は維新が取るべきなのだろうが、結局は市民が犠牲になって維新の政治家たちは「知らんぷり」ではないだろうか。

ジャーナリスト、作家

大阪府出身。立命館大学理工学部卒。元全国紙記者。2014年からフリーランス。2015年、新聞販売現場の暗部を暴いたノンフィクションノベル「小説 新聞社販売局」(講談社)を上梓。現在は大阪市在住で、大阪の公共政策に関する問題を発信中。大阪市立の高校22校を大阪府に無償譲渡するのに差し止めを求めた住民訴訟の原告で、2022年5月、経緯をまとめた「大阪市の教育と財産を守れ!」(ISN出版)を出版。

幸田泉の最近の記事