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「死体だけでも発見せよ」北朝鮮の刑事が忽然と消えた魔境地帯

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

 中国との国境に接する北朝鮮の両江道(リャンガンド)で先月20日頃、事件捜査中だった保衛部(秘密警察)の捜査官が消息を絶ち、現地が騒然としているという。

 デイリーNKの現地情報筋によると、消息を絶ったのは平安北道(ピョンアンブクト)の亀城(クソン)市の保衛部に所属する崔氏だ。

 崔氏は、亀城市から両江道の三池淵(サムジヨン)へ住宅建設のため派遣されていた金氏が行方不明となったことから、捜索のために派遣された。

 金氏が行方不明となった経緯は詳らかでないが、秘密警察の捜査官が派遣された状況から察するに、キツイ労働に耐えかねて逃亡したか、脱北に向けて潜伏中と予測されたと見られる。

 崔氏の消息が最後に確認されたのは、20日のことだ。保衛部に「三池淵に向かっている」と報告したのを最後に、連絡を絶った。これを受け、亀城市の保衛部は両江道の保衛部に捜索を要請。道保衛部は各市・郡の下部機関に、「死体だけでも探し出せ」と緊急指令を下したという。ただ、安全部(警察)と一般住民には周知していないもようだ。

 情報筋は「一般人でもない保衛員が行方不明になった点で、当局はこの事案をかなり慎重に扱っている。恵山(ヘサン)市と三水(サムス)郡の保衛員と情報員を総動員し、崔氏と金氏の行方を追っている」と説明した。

 果たして2人の身に何があったのか。政治犯の取り締まりに血道を上げる一方で、刑事事件の捜査に関しては無能に近い北朝鮮当局の体たらくのせいもあり、同国では誰も気づかないまま人々が消える出来事が珍しくない。

(参考記事:「キムチの下に少女を埋めた」レイプ殺人犯に無期懲役の判決

 情報筋はまた、「最近、国境地帯では行方不明事件がしょっちゅう発生している。生活難に苦しむ若者たちが、外部から来る人々に対して犯罪を働いているようだ。崔氏についても、そうした犯罪の犠牲になった可能性が考慮されているようだ」と話している。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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