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金正恩の「新型コロナ」感染懸念で北朝鮮当局が緊急措置

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

「わが国に新型コロナウイルスは入ってきていない」と繰り返す北朝鮮当局だが、首都・平壌から感染が疑われる住民を地方に移送する緊急措置が取られたと、デイリーNKの平壌の高位情報筋が伝えた。

情報筋によると、平壌で隔離、治療を受けていた16人について、北に約60キロ離れた平安南道(ピョンアンナムド)の安州(アンジュ)に移送せよとの指示が当該機関に下された。それに基づき、25日から3日間に分けて、患者、医療スタッフを医療機器とともに移動させる措置が取られた。

平壌では、中国に留学していて帰国後に高熱で死亡した20代の学生から新型コロナウイルスに感染したとの疑いがある18人が、万景台(マンギョンデ)区域の金星洞(クムソンドン)にある結核治療専門の第3人民病院で隔離治療を受けてきたとの情報がある。

その後、18人のうち4人が死亡し、10人が退院、4人が引き続き治療を受けてきた。そこに、新たに感染したと疑われている12人を加えた16人が、今回の移送の対象となったという。

第3人民病院は、市内の西部、高層マンション団地の光復通りのそばにあるが、朝鮮労働党の庁舎から西に7キロしか離れておらず、金正恩党委員長を含めた指導者層への感染リスクが懸念されていた。そのため、感染の疑いがある患者のみならず、医療スタッフや施設などすべてを移して感染の可能性を完全に取り除くため、徹底した移送が行われたということだ。

(参考記事:高熱の患者をそのまま火葬…「新型コロナか」北朝鮮で疑念広がる

また、病院のすぐ裏には内閣の文化省、体育省の庁舎、少し離れたところには万景台学生少年宮殿、芸術やコンピュータのエリート養成機関の金星学院、国営食品企業の金カップ体育人総合食料工場など重要施設ばかりだ。

医療施設が貧弱な北朝鮮では、新型ウイルスが全国に拡散しても対処できず、金正恩体制が傾きかねない。そのため、物資不足、物価高騰というデメリットを知りつつも、国境を閉鎖するほどの強硬策を取らざるを得なかった。それを考えると、国の最重要部のすぐそばに感染疑いのある患者をそのままにしておく選択肢はないだろう。

患者や医療スタッフの移送先は、安州にある人民保安省(警察庁)の休養施設と伝えられている。市内から離れていて隔離に適しており、一般人の接近も難しいことから、もし新型コロナウイルス感染が確定しても外部に情報が漏れにくいというメリットがある。また、移送に当たったのは暴動鎮圧を任務とするエリート部隊の一つ、人民保安省の機動打撃隊だ。

また情報筋によると、北朝鮮は高熱、喉の痛み、呼吸困難などの症状が現れた患者は、新型コロナウイルスの感染者とみなし、カウントしているが、外部には一般の肺炎や結核であると説明しているとのことだ。患者の安州への移送も、隠蔽の目的があるということだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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