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金正恩氏を脅かしかねない「甥っ子」の勇気

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

マレーシアで殺害された金正男(キム・ジョンナム)氏の息子・ハンソル氏を名乗る男性の動画がインターネット上で公開され、注目を集めている。

彼が本当にハンソル氏なのかどうか、そうであれば今後、どのような行動に出るつもりなのかが気になるが、それとともに興味深いのが、動画を乗せたホームページに掲げられた、「千里馬民防衛(Cheollima Civil Defense)」なる団体名だ。

なぜオランダに感謝?

ホームページにはハングルと英語で、千里馬民防衛が北朝鮮人の脱北(亡命)を支援するグループであることが説明されている。

また、連絡先のメールアドレスと、財政支援を募るためのビットコインアドレスも掲載されている。

(参考記事:金正男氏の息子・ハンソル氏の動画を掲載した「千里馬民防衛」HPの声明【日本語】

しかし、韓国の情報筋や脱北者団体の関係者らは一様に「千里馬民防衛という団体名は聞いたことがない」と言う。

手掛かりになりそうなのは、ハンソル氏ら金正男氏の家族を安全な場所に避難させる上で支援を受けたとして、千里馬民防衛がホームページ上で「オランダ政府、中国政府、米国政府と、ある匿名の政府に感謝の意を表す」としていることだ。

とくにオランダについては、エンブレヒツ駐韓国大使の名前を挙げて、「特別な感謝」を表すとしている。韓国のオランダ大使館はまだ、これがどういう意味なのかについてコメントしていないが、想像を巡らせる材料にはなる。

まず思い浮かぶのが、正男氏の殺害現場となったマレーシアはかつて、オランダの植民地だったということだ。筆者は現在の両国関係について知っていることはないが、歴史的な深いつながりを維持しているのだろうか。

次にオランダのハーグには、国際刑事裁判所(ICC)がある。国連では現在、北朝鮮の人権侵害について金正恩党委員長らの責任を問うべく、この問題をICCに付託すべきとの議論が持ち上がっている。また、韓国の人権団体なども、北朝鮮の人権侵害についてICCに告発を行っている。

さらに調べてみると、エンブレヒツ大使は2005年から2009年まで駐マレーシア大使の任にあったことがわかった。

北朝鮮当局がマレーシアで殺された人物について「金正男ではなく旅券の名義どおりキム・チョルである」と主張している中、北朝鮮国籍である正男氏の家族が遺体の身元を確認したり、外部に向けて意思を表明したりすることは簡単ではない。

(参考記事:北朝鮮当局の金正男氏「遺体横取り」に泣く美人母娘

それをやるとなれば、韓国や第三国への亡命を考えなければならないが、ハンソル氏がさらに思い切った行動に出るなら、父の死を巡りICCに何らかの提起を行うことも考えられる。

それは、並大抵の勇敢さではできないことだ。

ハンソル氏がそのような人物であるのなら、正恩氏にとっては、この「甥っ子」の勇敢さこそが最大の誤算となる可能性もある。

(参考記事:「喜び組」を暴露され激怒 「身内殺し」に手を染めた北朝鮮の独裁者

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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